12 愛されるもの・愛される花 | 南域結界☆ ジェルソミーナ

12 愛されるもの・愛される花

 振ったり光に透かしたり、ジュンクリフは、魔法の小道具で遊んでいる。
 しかし、戦場では使えそうだ、とやがて納得がいったらしい。
 ちょうどいい皮袋を探してきて、

「なあ、女って何をもらったら嬉しいもんなの」
 手荒に机の引出しへしまうと、再び、重い事典を取り上げた。
 ジェルソミーナは、彼を見返した。
「なに?」
「だから。くれてやるなら何がいいか、って。……あ。くそっ、つづり間違えたじゃん」
 茶色い前髪をかき上げて、一心不乱に、ペンを走らせている。
「……人によると思うけど……」
「デンドロビュームって、いい花だよな」
「そうね。私は好きだけど」
「そっか」
 後は何も言わずに、論文集のページを繰っている。
 ロウソクの芯が、縮れたかすれ声を立てている。

「いるね、さては。また新たに、心に決めた人が」
 ソファに腰掛けたまま、彼の背を見据えて、笑った。
「ふふん。どうかな」
 手を止めずに、どうとも取れる返事を、彼は返した。
 ジェルソミーナも、迷わずに聞く。
「つきあってるの?」
「いんや。まだ」
 そう答えてペンを止め、何やら天井を見上げていたが、また手を動かし始めた。

「早く、休みなさいよ」
 ジェルソミーナは席を立ち、窓を半分開いた。
 彼女の体が膜に包まれ、たちまちに姿が薄れていく。
「お前もな、仕事ほどほどにしとけよ。年なんだから。……ああ、それと」
 姿は見えなくとも、窓際に彼女が残っているのは分かっている。
 ジュンクリフは、立て続けに大きな欠伸をして、目をこすりこすり、
「これ、ありがとな」
 机の引出しを指差して言った。

 風が部屋を吹き抜け、窓はきしみながらゆっくりと、元の通り閉じられた。
 いつの間にか雪が、ちらつき始めていた。


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