10 愛されるもの・愛される花 | 南域結界☆ ジェルソミーナ

10 愛されるもの・愛される花

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 オイルランプの黄色い光が、彼女の隠れている大樹の陰を照らした。
 城壁の下からランプを夜空へ掲げる、その顔を、彼女は知っている。
 治安部隊の隊員は、姿を消している彼女に気が付かずに、辺りへランプを向け、あまりの寒さに両肩をすぼめた。
 馬の白い鼻息が、闇の向こうへ遠ざかっていく。

 彼女は、静かに空へ、舞い降りた。
 目当ての窓は、他と同じように、しんと静まり返っている。
「なんだあ」
 表からノックされて、いかにも無愛想な囁き声が返ってくる。
 窓が、音もなく開いた。
「なんか用か」
 通い女のおかげであれほど片付いていた私室が、今では書籍とメモで溢れかえっている。
 部屋の中は、暖炉の炎で暖かい。
 広いテーブルの上には、うず高く積まれた木版と図面、手書きの論文集に、むきかけのミカンと食器が所狭しと散乱し、無理やり場所を作ったと見える事典の上には燭台、ほんのわずかな角の空地に、彼がノートを広げる空間が残されていた。

「ちゃんと勉強してるかなー、と思って」
 わずかな風が吹き込むと同時に、ジェルソミーナの姿が現われた。
「久しぶりだな」
「まあね」
 欠伸をしながらも、ジュンクリフは、事典から目を上げない。
 ジェルソミーナは足を忍ばせ、そっと後ろから本の内容を、覗き見て、
「なんだか、とんでもなくややこしそうねー」
「ややこしいぜー」
「これ……何か聞いていい?」
「ああ……マイエルの化学式だよ。液体から光に成る時の……今、何時?」
 とびきり大きな欠伸をして、振り返りもせずに時間を聞いた。

 化学兵器・マイエル砲を用いる『帝国機甲師団』に、ジュンクリフは「顧問兼参謀」として迎えられた。
 この師団というのが名ばかりで、実際には部隊数にして一部隊、それも実戦経験のない軍人と、大半が技師で占められた、なんとも心もとない零細部隊であることは、城中の人間が周知しているところである。
 しかし今は零細とはいえ、事の発起者である総司令官・ガービン元帥は、並々ならぬ期待を、この部隊にかけている。
 その期待の一手目が、『マイエル使用に精通した、魔法学校』出身者……すなわちジュンクリフ中尉の起用であった。

「すごいな、これ全部読んだの。……えー。マイエルなんて分かるの?」


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