8 愛されるもの・愛される花
「とにかく! そんなの真に受けちゃだーめ! よかったら私から、お姫さまを通して、陛下にお願いしてもらうわ。クビにしてもらうのよっ!」
クビ、という言葉に、市場を行く人々が振り返った。
いつの間にか、大きな声になっていたようだ。
(い、いやあ、宰相をクビにしてもらうのは、ちょっと……)
ちょっとそれは、かわいそうな気がする。
もし相手がミドなら、年来の恨みのある奴だ、クビにでもなんでも、してもらって構わないけれど、みんなに称えられ、どういうわけか尊敬までされている宰相は……単に、『壊れている』だけのような気がするのだ。
思わず口に出して、呟いてしまった。
「それは、ちょっとかわいそうよね……」
「かわいそうだなんて!!」
フィーネは、帽子の下から睨みつけた。
「それが相手の思うツボなのよ。自分の立場利用して、弱い者いじめするのが奴の趣味なんだから」
「そ、そう?」
「あっちはね、弱い者いじめするのに、これっぽーっちも、悪いと思ってないのよ。だからこっちだって仕返しをするのに、そんな悪いとか思っちゃ駄目よ。やったらやり返される、痛い目見るってことを、よく相手に教えといてやらなきゃ! がんばろうね、ミーナっ!」
「うん……」
スカートを翻して、彼女はやる気満々だが、ジェルソミーナの気持ちは浮かない。
(キーツ様にやり返すの……? どーやって?)
やっぱり……クビだけは、かわいそうだ。
しかし、クビ以外の「仕返し」を考えてみても、一体、どんな仕返しをすればいいと言うのだろう。
(相手がミドだったら、どんな仕返しでもしてやるんだけどなあ)
どうもキーツ宰相と、「仕返し」という言葉は、しっくりこない。
人間ではないからか。
何をやっても、失敗しそうな気がする。
「もしも本気で、実行に移すとして、フィーネなら……他にどんな「仕返し」を考える?」
そうね、と職業令嬢は、首を傾げた。
この令嬢の夫になろうとしているのは、どんな男性なのだろう。
もしも帝国軍総司令官の娘、というその地位の魅力だけで、彼女を狙おうとする男なのだとしたら?
彼女に限って、そんな判断ミスはおかさないと思うが……。
「……タマネギスープに、ナメクジを入れてやるのよっ!」
意表をつかれた仕返しに、ジェルソミーナは言葉を失った。
「くっ……」
ミドではなく、キーツ宰相で、その一場面を想像してみた。
料理が運ばれて来る。
深皿にはオニオンスープが入っている。
何も知らずにキーツ様、ナフキンなんかを付けて、スプーンをスープに……。
途端、二人は大笑いをしていた。
「どう? どう?」
「やってみたいっ。すっごーっく、やってみたいっ!」
「絶対、驚くよねっ!」
「怒るだろうなあーっ」
腹もよじれんばかりとは、こういうことを言うのだろう。
「やってみたーいっ!」
二人はもう、涙目になっている。
>INDEX
クビ、という言葉に、市場を行く人々が振り返った。
いつの間にか、大きな声になっていたようだ。
(い、いやあ、宰相をクビにしてもらうのは、ちょっと……)
ちょっとそれは、かわいそうな気がする。
もし相手がミドなら、年来の恨みのある奴だ、クビにでもなんでも、してもらって構わないけれど、みんなに称えられ、どういうわけか尊敬までされている宰相は……単に、『壊れている』だけのような気がするのだ。
思わず口に出して、呟いてしまった。
「それは、ちょっとかわいそうよね……」
「かわいそうだなんて!!」
フィーネは、帽子の下から睨みつけた。
「それが相手の思うツボなのよ。自分の立場利用して、弱い者いじめするのが奴の趣味なんだから」
「そ、そう?」
「あっちはね、弱い者いじめするのに、これっぽーっちも、悪いと思ってないのよ。だからこっちだって仕返しをするのに、そんな悪いとか思っちゃ駄目よ。やったらやり返される、痛い目見るってことを、よく相手に教えといてやらなきゃ! がんばろうね、ミーナっ!」
「うん……」
スカートを翻して、彼女はやる気満々だが、ジェルソミーナの気持ちは浮かない。
(キーツ様にやり返すの……? どーやって?)
やっぱり……クビだけは、かわいそうだ。
しかし、クビ以外の「仕返し」を考えてみても、一体、どんな仕返しをすればいいと言うのだろう。
(相手がミドだったら、どんな仕返しでもしてやるんだけどなあ)
どうもキーツ宰相と、「仕返し」という言葉は、しっくりこない。
人間ではないからか。
何をやっても、失敗しそうな気がする。
「もしも本気で、実行に移すとして、フィーネなら……他にどんな「仕返し」を考える?」
そうね、と職業令嬢は、首を傾げた。
この令嬢の夫になろうとしているのは、どんな男性なのだろう。
もしも帝国軍総司令官の娘、というその地位の魅力だけで、彼女を狙おうとする男なのだとしたら?
彼女に限って、そんな判断ミスはおかさないと思うが……。
「……タマネギスープに、ナメクジを入れてやるのよっ!」
意表をつかれた仕返しに、ジェルソミーナは言葉を失った。
「くっ……」
ミドではなく、キーツ宰相で、その一場面を想像してみた。
料理が運ばれて来る。
深皿にはオニオンスープが入っている。
何も知らずにキーツ様、ナフキンなんかを付けて、スプーンをスープに……。
途端、二人は大笑いをしていた。
「どう? どう?」
「やってみたいっ。すっごーっく、やってみたいっ!」
「絶対、驚くよねっ!」
「怒るだろうなあーっ」
腹もよじれんばかりとは、こういうことを言うのだろう。
「やってみたーいっ!」
二人はもう、涙目になっている。
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