6 鏡の微笑
好きになれないのは祭も、パレードも同じだ。理由など何もない、ただどうしても好きになれないのである。
ギターとタンバリンが、彼女の歌声を後押しする。
『囁く言葉はどこかで見かけた切り抜き
身を捨てた愛の告白も
あなたにはほんの 睦み言(むつみごと)の続き』
女達は木箱を積み上げた、舞台の上で踊る。
『シルクのシーツで見せる あどけない寝息が
頑固者のあなたには別人
本当は別れたいんだと言ってくれたら
余程 楽になれるのにと思う
もう愛していないと言ってくれたら
私はあなたを 待たなくて済む』
けれど彼の足は、階段を進ませた。もっと広場に近い所へ、もっとよく見える場所へ。
我慢のならない笑い声、歌声に、足が速まるのは怒りのせいだったのだろうか。不愉快にさせる犯人を見つけてやろうと、無意識に足が走り出したのだろうか。
風船売りや屋台のひしめく広場で、観客が集まる一角があった。
木箱を集めただけの粗末な舞台の上で、商店の婦人達が腕を組んで踊っている。
中央奥に座った女はギターをかき鳴らし、この楽しい年越の祭にご満悦の様子だ。
『眠りが深く 安らぐごとに
私の行き着く波止場がない』
キーツはようやく、歌い手を遥か下界に見下ろす、テラスの最端に辿り着いた。
女は観客と主婦達に向かって、歌い続ける。包帯だらけの腕も、彼女には全く苦にならないようだ。
『本当の思いはあなただけにしか分からない
愛していないと言って捨ててよ
そうでないのなら最後に……』
もちろん、キーツにはその女が誰なのか、遠目でも分かった。
「結界師……」
『最後に……』
女のソプラノの声が響き渡る。広場の端から端まで。
「生きて……いたのか……」
セロを引き寄せて、男達は弦を弾く。
主婦達が踊りやすいようにと、曲も軽く長めに変えた。軽業師が階段の上で、軽妙な演技を見せる。こんなに騒いで、明日の新年の祭は大丈夫なのだろうか。
ジェルソミーナは間奏に軽口を入れて、足先でリズムをとる。明日は彼女も仕事は何もしない事にして、故郷のシプリペディルム公国へ帰るつもりだ。シプリペディルムは貧しくて、しかも今頃、大雪に埋もれているだろうから、こんな帝都ロードのような年末は期待できない。おそらく母さんも父さんも町の人も、それから魔法学院の人達も、質素で慎み深い年越を迎えようとしているに相違ない。
斑猫が舞台へ上がってくる。ジェルソミーナは手を止めて、ポケットの中からクッキーの小片を取り出した。
「食べるー? ほらっ」
猫はびっくりして舞台を降りかけ、また恐る恐るクッキーに近付いてきた。
男達が、ジェルソミーナに目で笑いかける。猫は食べ物なのか調べてみるために、鼻先で匂いを確かめているようだ。
ジェルソミーナも小さく笑って、続きを歌うために息を吸い込んだ。
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ギターとタンバリンが、彼女の歌声を後押しする。
『囁く言葉はどこかで見かけた切り抜き
身を捨てた愛の告白も
あなたにはほんの 睦み言(むつみごと)の続き』
女達は木箱を積み上げた、舞台の上で踊る。
『シルクのシーツで見せる あどけない寝息が
頑固者のあなたには別人
本当は別れたいんだと言ってくれたら
余程 楽になれるのにと思う
もう愛していないと言ってくれたら
私はあなたを 待たなくて済む』
けれど彼の足は、階段を進ませた。もっと広場に近い所へ、もっとよく見える場所へ。
我慢のならない笑い声、歌声に、足が速まるのは怒りのせいだったのだろうか。不愉快にさせる犯人を見つけてやろうと、無意識に足が走り出したのだろうか。
風船売りや屋台のひしめく広場で、観客が集まる一角があった。
木箱を集めただけの粗末な舞台の上で、商店の婦人達が腕を組んで踊っている。
中央奥に座った女はギターをかき鳴らし、この楽しい年越の祭にご満悦の様子だ。
『眠りが深く 安らぐごとに
私の行き着く波止場がない』
キーツはようやく、歌い手を遥か下界に見下ろす、テラスの最端に辿り着いた。
女は観客と主婦達に向かって、歌い続ける。包帯だらけの腕も、彼女には全く苦にならないようだ。
『本当の思いはあなただけにしか分からない
愛していないと言って捨ててよ
そうでないのなら最後に……』
もちろん、キーツにはその女が誰なのか、遠目でも分かった。
「結界師……」
『最後に……』
女のソプラノの声が響き渡る。広場の端から端まで。
「生きて……いたのか……」
セロを引き寄せて、男達は弦を弾く。
主婦達が踊りやすいようにと、曲も軽く長めに変えた。軽業師が階段の上で、軽妙な演技を見せる。こんなに騒いで、明日の新年の祭は大丈夫なのだろうか。
ジェルソミーナは間奏に軽口を入れて、足先でリズムをとる。明日は彼女も仕事は何もしない事にして、故郷のシプリペディルム公国へ帰るつもりだ。シプリペディルムは貧しくて、しかも今頃、大雪に埋もれているだろうから、こんな帝都ロードのような年末は期待できない。おそらく母さんも父さんも町の人も、それから魔法学院の人達も、質素で慎み深い年越を迎えようとしているに相違ない。
斑猫が舞台へ上がってくる。ジェルソミーナは手を止めて、ポケットの中からクッキーの小片を取り出した。
「食べるー? ほらっ」
猫はびっくりして舞台を降りかけ、また恐る恐るクッキーに近付いてきた。
男達が、ジェルソミーナに目で笑いかける。猫は食べ物なのか調べてみるために、鼻先で匂いを確かめているようだ。
ジェルソミーナも小さく笑って、続きを歌うために息を吸い込んだ。
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