4 鏡の微笑
二人の少女は顔を見合わせて、全く宰相が自分達に気付いてくれないね、と困ったように首をかしげた。
マチルダが先に、ぴょこんと絨毯の上に降り立った。それを真似るようにして、もう一人の少女も、おずおずと絨毯に足を伸ばしてみる。
天井にまで届くほどの大きな鏡に、二人の姿が映し込まれた。
その影に彼はようやく気付き、顔を上げた。
「なんだ!」
三つ編の少女は本棚に手を伸ばそうとしている、もう一人の少女はキャンディを舐めて、ぶ厚い眼鏡で興味津々に辺りを眺めまわしている。
「キーツ君、遊びに来たのーっ」
「帰れ!」
「んーっ」
開口一番、怒鳴られて、マチルダは放心したように、
「帰ろう、レイリちゃん」
「うんっ」
今、降りてきたばかりの、窓によじ登ろうとした。
(木偶が)
――なぜ、こんな奴らばかりなのだろう――。
彼の体はもう動かない。
床の上から、動き出す力さえなくしてしまっている。
(なぜ、こんなつまらない……)
あの時、聞こえた幻聴が、再び耳をくすぐりだす。
『木偶を作り出した張本人は、あなた自身なのよ?』
幻聴は、あの女の声で囁いていた。
『あなたさえ出て来なければ、他の人達は意味ある物として生きることができたのに』
(……そうなのだろう……きっと)
彼は容易くうなずいた。もう、言い訳も思いつかない。
(わたしさえ出て来なければ、きっと世界は、もっと明るいものになっていたのに違いない)
何の音も聞こえない。
体中から力が抜けていく。深い闇……そう、あの縦穴で見ていた、深い闇……。
(なぜなんだろう。あの木偶は、なぜわたしを否定したのだろう)
彼はふと、その疑問につきあたった。
(なぜ。なんのために?)
口論をした。剣を撃ち込み、手傷を負わせた。魔法をはね返し、結界を破り……それでも……。
(それでもあいつは何と言った?)
木偶の視線を思い出す。何度も悪夢のように思い出した視線だ。
今でも思い出せる。
あれは何物も突き破ろうとする、勢いのある視線。
(あいつは……一体……)
「……なぜ……」
涙が、止まらない。
(なぜ……?)
今は心の底から、あの木偶がなぜ彼に逆らっていたのかを、知りたいと思った。
キーツが目を覚ましたのは、次の瞬間であった。
「!」
いや、目は最初から閉じていなかったかもしれない。気付いたのだ、その光、その動きに。
「動くな!」
彼はいつもの宰相に戻った。言われた通りに帰ろうと、大人しくホウキにまたがった少女達は驚いて、危うく窓辺で踏み留まった。
「っ……」
キーツはゆっくりと、窓に対面した、その大きな鏡を振り返った。
鏡の中の一番奥、窓際には、ホウキにまたがったままのマチルダが映っている。
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マチルダが先に、ぴょこんと絨毯の上に降り立った。それを真似るようにして、もう一人の少女も、おずおずと絨毯に足を伸ばしてみる。
天井にまで届くほどの大きな鏡に、二人の姿が映し込まれた。
その影に彼はようやく気付き、顔を上げた。
「なんだ!」
三つ編の少女は本棚に手を伸ばそうとしている、もう一人の少女はキャンディを舐めて、ぶ厚い眼鏡で興味津々に辺りを眺めまわしている。
「キーツ君、遊びに来たのーっ」
「帰れ!」
「んーっ」
開口一番、怒鳴られて、マチルダは放心したように、
「帰ろう、レイリちゃん」
「うんっ」
今、降りてきたばかりの、窓によじ登ろうとした。
(木偶が)
――なぜ、こんな奴らばかりなのだろう――。
彼の体はもう動かない。
床の上から、動き出す力さえなくしてしまっている。
(なぜ、こんなつまらない……)
あの時、聞こえた幻聴が、再び耳をくすぐりだす。
『木偶を作り出した張本人は、あなた自身なのよ?』
幻聴は、あの女の声で囁いていた。
『あなたさえ出て来なければ、他の人達は意味ある物として生きることができたのに』
(……そうなのだろう……きっと)
彼は容易くうなずいた。もう、言い訳も思いつかない。
(わたしさえ出て来なければ、きっと世界は、もっと明るいものになっていたのに違いない)
何の音も聞こえない。
体中から力が抜けていく。深い闇……そう、あの縦穴で見ていた、深い闇……。
(なぜなんだろう。あの木偶は、なぜわたしを否定したのだろう)
彼はふと、その疑問につきあたった。
(なぜ。なんのために?)
口論をした。剣を撃ち込み、手傷を負わせた。魔法をはね返し、結界を破り……それでも……。
(それでもあいつは何と言った?)
木偶の視線を思い出す。何度も悪夢のように思い出した視線だ。
今でも思い出せる。
あれは何物も突き破ろうとする、勢いのある視線。
(あいつは……一体……)
「……なぜ……」
涙が、止まらない。
(なぜ……?)
今は心の底から、あの木偶がなぜ彼に逆らっていたのかを、知りたいと思った。
キーツが目を覚ましたのは、次の瞬間であった。
「!」
いや、目は最初から閉じていなかったかもしれない。気付いたのだ、その光、その動きに。
「動くな!」
彼はいつもの宰相に戻った。言われた通りに帰ろうと、大人しくホウキにまたがった少女達は驚いて、危うく窓辺で踏み留まった。
「っ……」
キーツはゆっくりと、窓に対面した、その大きな鏡を振り返った。
鏡の中の一番奥、窓際には、ホウキにまたがったままのマチルダが映っている。
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