2 赤いリボン | 南域結界☆ ジェルソミーナ

2 赤いリボン

 双子の姉妹が、そのピンクのつぼみを振り返った時、侍女は二階の合図に気が付いて、慌てて言った。
「おや、今日はあのお客も御一緒だ。こうしちゃいられませんよ、カトリーヌ様、マーガレット様。お客様をお連れになって、王様がお帰りになられたのですよ。……お二人だけでお部屋にお戻りになられませ。私はすぐにでも支度にかからねばなりませんから」
 侍女はマーガレットのショールを直しながら言った。
 今日はたまたま城の女達が、兵舎の方へ手伝いに出ていて、人手が足りなかったのである。
「よろしいですね。ここにもすぐに椅子が運び込まれて、酒の用意もされるでしょう。また兵士もたくさん入ってまいりますから、いつまでもここにはおれませんよ。さあ、早く」
 そう言われると二人の姉妹はここから出て行かざるをえなくなった。
 マーガレットはしぶしぶカトリーヌと手をつないだし、カトリーヌも暗い表情でため息をついた。

 二人は自分達の部屋のある、”白い塔”の最上階まで、気がすすまない様子で戻って行った。
 気候が激しく、厳しく、また戦争の中心となるのが常であったこの城は、なんとも無機質に、複雑に造られた城であった。暗く冷たく、またやたらと段の低くて、数だけは多い階段の、曲がりくねった細い通路を、頼りなげに登って行く王女達は、ロウソクの暗い光のせいか、ひどくちっぽけに見えた。

 部屋の前にまで来て、王女達の歩みはぐっと遅くなった。
 カトリーヌがついに、後ろを振り返った。マーガレットも振り返った。
 二人の気にしている事は全く同じだった。
 春になると、お花は開く。それはあたたかくなるから。まぶしくなるから。誰かが声をかけるから。
(お客様のいらっしゃるお部屋はいつもあたたかだから)
(お父様のお召し物はいつもぴかぴか光ってるもの)
(ずっとずっと私達、声をかけてきたもの。お客様もお花に声をおかけにならないとは限らないわ)
(……開くかもしれない)
 そう考えると、何かにつかまれたように苦しくなって、王女達はお互いの顔を見つめ合った。
 そしてもう一度、かたく手をつなぎ直すと、今来た道を逆に歩き始めた。
 双子の姉妹は心臓の鼓動を二人分耳にした。

 兵士達は中庭にはいなかった。そこには王と客だけが、花を後ろに、椅子に腰かけていた。
「どう」
「分からないわ。お父様の肩に隠れているの」
 柱の陰に赤と黄のリボンが舞った。
 そこは二人が隠れるにはもってこいの場所だった。
 父と客の会話を聞くつもりはないが、ここだと、それも耳に入ってくる。
 王女達はそれよりも、あのピンクの花が気になって仕方がなかった。
「見えないわ」
 マーガレットが口惜しそうに言った。
「待って。グラスをお取りになるわ」


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