2 エピローグ | 南域結界☆ ジェルソミーナ

2 エピローグ

 観客達の中から声が聞こえてくる。
「はあはあ。えらいことになってますねえ」
「先生、こんな所でなにをしてるんっすか。こんな所に来ちゃいけやせんぜ。もしお体になにかあったら」
「いやでもね。こんな状態じゃ、騒がしくって本も読んでいられませんよ」
「分かりやした。見てて下せえ、あっしが行ってすぐに止めて見せやさあ」
「おやめなさい、ベトル君……あなたの手に負える狐じゃありませんよ」
「先生、先生はあっしのこと心配して下さるんで? うううっ。ありがてぇ……」
 女は手の平を振りかざした。
(今に見てろ……)
 狐の前足が壁を突き破った。女はそれを封じ込める。粘り気のある表膜が、飛び出したならず者を捕まえ、押し戻そうとする。
(……どいつもこいつも、のんきに観客、決め込みやがって……!)
「ギャアアアアアーッ!」
(しま……っ!)
 飛び跳ねた狂狐の体が、唯一、まだ完全に閉じていなかった天井の壁を突き破った。補助をする捕縛線も、狐の早さには追いつかない。
「フウウウウーッ」
 銀色の目を光らせて、魔獣はようやく自由になった身を、学舎の屋根の上で踊らせている。
 首が幾つか無くなって苦しいのだろう、いつものように身軽とはいえない。
 まだらの尻尾が正午の太陽をかすめて、燃えるように膨れ上がる。いや、本当に燃えさかっていた。狐王は人間を睨みつける。自分をここまで落とし入れた、憎き人間を。
「げっ……」
 目が狐と合ってしまって、女は地面に倒れたまま息を呑んだ。
 張ったはずの結界は、彼女が意識を失った瞬間に消えてしまったようだ。手には一本の呪術ピンも残っていない。
(どうする……)
 彼女の精神力はもう限界だ。このところ大きな仕事続きで、もともと辛すぎる戦いだったのだ。
 観客達……魔法学の教授達や生徒達といえば、とっくの昔に蜘蛛の子を散らしたように逃げてしまっている。
「フウウウウウーッ!」


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