1 エピローグ
エピローグ
――それから十数年後――
誰も止めることのできなかった魔獣の動きが、今、こうして学院の屋根すれすれの所で止まっている。
八つの首を持つ、奇怪で巨大な真紅の狂狐。
大綱ほどもある赤い光線が、一頭の首に絡みつき、どうにも苦しそうだ。
「ぬぬぬぬぬぬ」
そして苦しそうなのは狂狐だけではない、彼を罠に落とし込んだ人間の女だってそうだ。
歯をくいしばり、腕に連結する光線の重さに耐えながら、女は滑り出しそうな足を地面に踏んばる。
「おい、頼むから学院を壊さないでくれ。借金が残ってるんだぞ」
「そうだそうだ。そいつの処分に失敗したらお前のせいだ。こっちは授業も止めてるんだ」
「なんでもいいから早くしてくれよ。俺、教科書、取りに入りたいんだよ」
「結界師さん、それが終わったらお茶にしましょうねー」
観衆はいい気なものだ。
もちろん言い返したくとも、今の彼女にはそんな余裕など全くない。
一瞬のうちに重さを全て左腕に託し、バランスを失いながら、もう一つ張っておいた罠を発動させる。
「ギャアーッ!」
身の毛もよだつ叫び声に、人々は思わず耳を塞いだ。
学舎の瓦が吹き飛び、絵の具で染めたような赤い膜が、噴水のように地面から空へ一斉に立ち昇る。
その時、魔獣の姿は壁の向こうに隠れて見えない。
見えたのは唯一、壁に切断されて跳ね落ちる、狐の生首だけである。
狐の叫び声は、その時に発せられたものであった。
(くっ……)
女は壁を、円筒状に変えた。そうして狂狐を包み込む。暴れ狂う狐は尻尾を、足を、残った首で壁を蹴りつけた。
(うう……っ!)
衝撃は全て、直に両腕へと伝わってくる。今日の彼女は仕事を忘れて、ほんの気軽に、自分の卒業した魔法学院へ遊びに来ただけだ。もちろん、魔物の襲来に備えて来ているはずなどない。
(それを……)
彼女は腹立たしげに呪文を続けた。
(今に見てろ……)
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――それから十数年後――
誰も止めることのできなかった魔獣の動きが、今、こうして学院の屋根すれすれの所で止まっている。
八つの首を持つ、奇怪で巨大な真紅の狂狐。
大綱ほどもある赤い光線が、一頭の首に絡みつき、どうにも苦しそうだ。
「ぬぬぬぬぬぬ」
そして苦しそうなのは狂狐だけではない、彼を罠に落とし込んだ人間の女だってそうだ。
歯をくいしばり、腕に連結する光線の重さに耐えながら、女は滑り出しそうな足を地面に踏んばる。
「おい、頼むから学院を壊さないでくれ。借金が残ってるんだぞ」
「そうだそうだ。そいつの処分に失敗したらお前のせいだ。こっちは授業も止めてるんだ」
「なんでもいいから早くしてくれよ。俺、教科書、取りに入りたいんだよ」
「結界師さん、それが終わったらお茶にしましょうねー」
観衆はいい気なものだ。
もちろん言い返したくとも、今の彼女にはそんな余裕など全くない。
一瞬のうちに重さを全て左腕に託し、バランスを失いながら、もう一つ張っておいた罠を発動させる。
「ギャアーッ!」
身の毛もよだつ叫び声に、人々は思わず耳を塞いだ。
学舎の瓦が吹き飛び、絵の具で染めたような赤い膜が、噴水のように地面から空へ一斉に立ち昇る。
その時、魔獣の姿は壁の向こうに隠れて見えない。
見えたのは唯一、壁に切断されて跳ね落ちる、狐の生首だけである。
狐の叫び声は、その時に発せられたものであった。
(くっ……)
女は壁を、円筒状に変えた。そうして狂狐を包み込む。暴れ狂う狐は尻尾を、足を、残った首で壁を蹴りつけた。
(うう……っ!)
衝撃は全て、直に両腕へと伝わってくる。今日の彼女は仕事を忘れて、ほんの気軽に、自分の卒業した魔法学院へ遊びに来ただけだ。もちろん、魔物の襲来に備えて来ているはずなどない。
(それを……)
彼女は腹立たしげに呪文を続けた。
(今に見てろ……)
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