12 魔法のことば | 南域結界☆ ジェルソミーナ

12 魔法のことば

 少女は恥ずかしそうにうなずいた。
「そうかー。この分だと先生、レシングちゃんを取られちゃうかもしれないなあ」
 レシングは、はっと顔を上げて、横に大きく首を振った。
「違うの!」
「分かってるよ。そんな泣きそうな顔をしなくたっていいよ。先生はよく分かっているから」
 そう言って、リボンのよく似合う髪をなぜた。
「……でね、その男の子、今、旅に出てるの。ちょっと遠い所にお使いの旅なんだって。いつ……戻って来れるか、分からないって言ってたけど……」
 少女は恥ずかしそうに笑って、
「次は一緒に、旅をしようって約束してるの」
「そうか」
 学院長は優しく笑った。
「海、見に行こうねって」
「そうか、それはいいね」
 少女はうつむき加減に、けれど幸せをこらえきれないように笑みを浮かべた。
「とても楽しみにしてるの」
 頭をなぜてもらいながら、小さな魔法学院生はちょっと笑い声を上げた。
 そして……。
 もちろん、学院長には言えなかった。
 あの少年が……あの目立たない、真面目で大人しく、人のよい、誰かの影にいつも隠れていたような、平凡なあの少年が……あの夜、冷たい礼拝堂の中、体の一部も残さずにこの世から消えてしまったことを。
 少年が何をしていたのか、なにを望んでいたのか、本当のところは誰にも分からない。
 ただ、残された魔方陣からある程度の予測はできる。
 あの少年は自分で、自分の命を絶ったのだ。神と、何かしらの契約を結んで。
 学院長は身震いをした。嫌な予感がする。
(この贈り物が、この少女の心を締めつけたりしなければいいが。呪縛とならなければいいが……)
 レシングはとてもとても幸せそうだった。
 そんな一年前では考えられない、幸福な姿を見ているうちに、本当のことなど、学院長には言えなくなってしまっていた。


>INDEX