8 魔法のことば | 南域結界☆ ジェルソミーナ

8 魔法のことば

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 その日の午後、学院長室に、防御魔法学の教授フランドルに付き添われて、灰色の制服の少女が現れた。
「レシングちゃんかい、どうしたい」
 椅子を反転させて、学院長は声を上げた。
 茶色い目が驚いて、少女は慌てて視線をそらす。
 頬が赤くなっている。
「学院長」
 見せてみなさい、とフランドルが肩を押した。
 レシングはよろけながら一歩前に出て、学院長を見上げ、そして立ちはだかる、背後の黒い影を返り見た。
「やってみせなさい」
 もう一度、強い口調でフランドルが言った。
 少女は両手を胸の前で組み、呪文を唱えるための態勢に入った。うつむいて、その表情は、誰にも見ることができない。
「フランドル君、ちょっとはずしていてくれないか」
 おもむろに学院長が言った。
「用が終わったら、すぐに呼ぼう」
 いつものようにのんびりとした調子だったが、厳しい口調でもあった。フランドルは問い返しもせずに、すぐさま部屋を退出した。
 学院長は花瓶の花に手を伸ばした。
「やってごらんなさい」
 蕾のままの花を取り上げて、学院長は独り言のように呟いた。
「うまくできたら紅茶を入れて、クッキーと、一緒におやつにしよう」
 今度は本当に、少女は呪文を唱え始めた。
「風を呼べるかい」
 しばらくためらった後、少女はこくん、とうなずいて、額の前でこぶしを組んだ。
「光を、この天井に集められるかい」
 女神の描かれた丸天井を、学院長は指差した。
「炎の小さな破片を、このロウソクに近付けるんだよ」
 一生懸命に呪文を唱えているのは、学院長にも痛いほど分かった。
 少女は真剣に魔法の呪文を唱えている。
 身じろぎ一つ、まばたき一つ、微動だにしない。呪文も、魔法に対する姿勢も、特段、問題はないように思われた。
(なのに……)
 なんの変化も起きていないのはどういう訳だろう。
 この前、彼に見せたあの現象は、幻だったのだろうか。あれは間違いなく、魔法ではなかったのか。
(いや、幻であるはずがない)


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