6 魔法のことば
すっかり眠気など吹き消えてしまっていた。
神官はわずかに漏れ出てくる声に耳をすませながら、聞いたはずのある、この声の持ち主を思い出そうとしていた。
そして、この隣の部屋は、いったい何の部屋だったのか。
学院の別棟、神々を祭る、最上階のこの円形の廊下。
五つの大神。十二の司神。
全部で、十七の礼拝室がある。
(隣の部屋は何だったか……何を祭っていたか……)
思い出せない。
「僕はあの人を見る度に、自分の運命が悲しくてならない。僕はただ、あの人の傍にいて、あの人を守っていたいだけなのに……。傍にいて。あの人の声を聞いて、あの人の手をとって、目を見つめて、一緒に……。ただ、傍に居たいだけなのに。それだけの事なのに。それだけの事が……僕にはもう……僕にはできない」
すすり泣く声が、壁を越えてこの礼拝室にまで響いた。
「僕は、あの人に何もしてやれない! 僕に無限の力があれば。あの人のように、無限の可能性と、未来があれば。可能性さえあれば、僕は何だってしてやれる。あの人を、もっともっと幸せにだってしてやれる。可能性……未来さえ、僕に残されていれば……!」
学生の顔を、ひとつひとつ最初から思い出していく神官の頭に、最後にようやく、ひとつの名前が思い出しかかった。
「お願いです。あの人を守る力を下さい! もう僕は、自分の命を長くしてくれだなんて、そんなこと言いません。でもお願いです。あの人を守る力を! ……残り少ない、僕のちっぽけな、やつれた命と引き換えに……僕が死んでも、あの人をずっと守り続けることのできる、そんな力を下さい!」
(暗黒神の部屋じゃないか!)
神官は礼拝室を飛び出して、隣の部屋の扉を叩いた。
「おい、誰だ! 誰か中にいるんだろ、返事をしろ! そして早くそこから出て来るんだ!」
扉が大きく軋み、埃を舞い上げたが、鍵のかかった扉はびくともしなかった。
「分かってるのか、その部屋は危険なんだ。そこからすぐに出るんだ!」
扉を叩くたび、焚き染められているらしい香の匂いが廊下に溢れ出した。
(これは……まずい……)
「やめろ! こんな事は、子供がしていい事じゃない。危ないから、出て来るんだ!」
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神官はわずかに漏れ出てくる声に耳をすませながら、聞いたはずのある、この声の持ち主を思い出そうとしていた。
そして、この隣の部屋は、いったい何の部屋だったのか。
学院の別棟、神々を祭る、最上階のこの円形の廊下。
五つの大神。十二の司神。
全部で、十七の礼拝室がある。
(隣の部屋は何だったか……何を祭っていたか……)
思い出せない。
「僕はあの人を見る度に、自分の運命が悲しくてならない。僕はただ、あの人の傍にいて、あの人を守っていたいだけなのに……。傍にいて。あの人の声を聞いて、あの人の手をとって、目を見つめて、一緒に……。ただ、傍に居たいだけなのに。それだけの事なのに。それだけの事が……僕にはもう……僕にはできない」
すすり泣く声が、壁を越えてこの礼拝室にまで響いた。
「僕は、あの人に何もしてやれない! 僕に無限の力があれば。あの人のように、無限の可能性と、未来があれば。可能性さえあれば、僕は何だってしてやれる。あの人を、もっともっと幸せにだってしてやれる。可能性……未来さえ、僕に残されていれば……!」
学生の顔を、ひとつひとつ最初から思い出していく神官の頭に、最後にようやく、ひとつの名前が思い出しかかった。
「お願いです。あの人を守る力を下さい! もう僕は、自分の命を長くしてくれだなんて、そんなこと言いません。でもお願いです。あの人を守る力を! ……残り少ない、僕のちっぽけな、やつれた命と引き換えに……僕が死んでも、あの人をずっと守り続けることのできる、そんな力を下さい!」
(暗黒神の部屋じゃないか!)
神官は礼拝室を飛び出して、隣の部屋の扉を叩いた。
「おい、誰だ! 誰か中にいるんだろ、返事をしろ! そして早くそこから出て来るんだ!」
扉が大きく軋み、埃を舞い上げたが、鍵のかかった扉はびくともしなかった。
「分かってるのか、その部屋は危険なんだ。そこからすぐに出るんだ!」
扉を叩くたび、焚き染められているらしい香の匂いが廊下に溢れ出した。
(これは……まずい……)
「やめろ! こんな事は、子供がしていい事じゃない。危ないから、出て来るんだ!」
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