1 魔法のことば
第三章
入れたての、紅茶の芳しい香りが辺りに広がる。
珍しく、今日は朝から気分が良かった。
プリッター教授はカーテンの隙間から夜空を見上げて、無性に窓を開け放ちたい衝動を、ぎりぎりのところで留めておいた。
夜になると、もう彼の私室に遊びに来る客もいない。
窓の閂をしっかりと掛けて、ストーブの上から、暖めておいたスリッパとマフィンのお皿を取り上げた。
「先生っ」
小さな声だが誰とはっきり分かる、いつもの声が表から聞こえた。
「どうぞ」
スリッパを絨毯の上に置いて、彼はストーブにもう一皿、マフィンの皿を乗せておいた。
「どうしました。そんなにも慌てて」
彼はわずかに微笑む。
「聞いちまったんですよぉ、教授っ!」
真っ黒い岩石のような顔が、ぐしゃりと歪む。情けない声を上げるベトルの顔が、なんだか今夜は余計に子供っぽく見えた。
「聞いてしまったって、何を」
「聞いちまったんですよぉ。もう、もう……いやあ、まったくねえ」
プリッターは袖を巻き上げて、ティーポットからお茶を注いだ。
「どうかしたんですか」
見上げると、いつの間にかベトルの顔が真っ赤になっている。教授は黙って、紅茶を差し出した。
「俺にゃあ、駄目だ。ああいう根性はないな。いやあ……最近のガキは、えらくませているんだなあ」
「一体、何があったんですか」
「リュイが言っちまったんっすよ」
「はい?」
「レシングちゃんが好きだ、って」
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入れたての、紅茶の芳しい香りが辺りに広がる。
珍しく、今日は朝から気分が良かった。
プリッター教授はカーテンの隙間から夜空を見上げて、無性に窓を開け放ちたい衝動を、ぎりぎりのところで留めておいた。
夜になると、もう彼の私室に遊びに来る客もいない。
窓の閂をしっかりと掛けて、ストーブの上から、暖めておいたスリッパとマフィンのお皿を取り上げた。
「先生っ」
小さな声だが誰とはっきり分かる、いつもの声が表から聞こえた。
「どうぞ」
スリッパを絨毯の上に置いて、彼はストーブにもう一皿、マフィンの皿を乗せておいた。
「どうしました。そんなにも慌てて」
彼はわずかに微笑む。
「聞いちまったんですよぉ、教授っ!」
真っ黒い岩石のような顔が、ぐしゃりと歪む。情けない声を上げるベトルの顔が、なんだか今夜は余計に子供っぽく見えた。
「聞いてしまったって、何を」
「聞いちまったんですよぉ。もう、もう……いやあ、まったくねえ」
プリッターは袖を巻き上げて、ティーポットからお茶を注いだ。
「どうかしたんですか」
見上げると、いつの間にかベトルの顔が真っ赤になっている。教授は黙って、紅茶を差し出した。
「俺にゃあ、駄目だ。ああいう根性はないな。いやあ……最近のガキは、えらくませているんだなあ」
「一体、何があったんですか」
「リュイが言っちまったんっすよ」
「はい?」
「レシングちゃんが好きだ、って」
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