7 すべてのはじまり | 南域結界☆ ジェルソミーナ

7 すべてのはじまり

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 彼女は、声をあげて泣いたりはしない。
 涙などというものを、彼女は痛みのために流したりはしない。
 手に打ち込まれた刺繍針の痕も、腕にひろがる鞭の傷跡も、そしてふくらはぎに残る火傷の傷も、彼女の目から一滴の涙も引き出さなかった。
 少女は暗い講堂の、扉をようやく押し開いた。
 ロウソクが照らす天井の底、講堂には厳粛な空気が漂っている。聖者クラナンの立像が、険しい顔で三階説教台から見下ろしている。
 レシングはわずかにびっこをひきながら、誰もいない講堂をゆき、扉から一番遠い、壁際の隅の席に座った。
 大講堂には、誰も入ってくる気配はない。
 それでも、誰かの目を気にしながら、少女はわずかに身動きしてみる。
 そして、両手を差し上げてみる。
 心を集中する時は、体中の体液が指先に流れ込むように意識するのだ。
 唇を震わせ、舌先を丸め、宙の指をそっと絡める。終わりのない謎だらけの言葉。教わった通りの呼吸法、教わったままの発音を、静けさの中で実演してみせる。
 アーチ状の窓から、白い光が差し込んだ。雲が流れ、細い三日月が姿を現したのだ。
 程度の低い、できそこないの彼女でも、月が神秘的な力を持つことは知っている。人間には計り得ない、負の魔力を持っていることを知っている。
 月は潮の満ち引きを司り、動物の生態リズムを規則正しく、あるいは自由自在に操るのだ。
 高く差し上げた指先に、わずかな痺れが伝わるような気がした。
 全ての体液が一点に集中し、力がその一点で発熱を始める時、体内に眠る魔法の力は、精神力をバネに増幅を開始する。
 そして……、やがて、レシングは両手を膝におろした。
 今夜もやはり、何もおきなかったのである。
「レシングちゃん……」
 いつの間に来ていたのか、すぐ傍で少年の声が聞こえた。
「レシングちゃん」


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