9 お気楽ジュン君の憂鬱な一日 | 南域結界☆ ジェルソミーナ

9 お気楽ジュン君の憂鬱な一日

 貧相な男は絶望的な嘆き声を上げて、神父の裾にかじりついた。
「俺達にはもう、どうしようもないって言うのかよっ、神父さんっ。俺達は神様のために戦ってるんだっ。そうだろ、そうだろ? それでも赦されねえって言うのかよっ」
 整備兵もまた、声を上げた。
「俺はとにかく、あの女を殺しちまえばいいと思って、これを掠め盗ったんだ。神様が、あの女が来る度に苦しんでいるのは、城の人間、みんなが気付いてることだからよ! 知ってるか? 閣下はあの毒婦が来る度に、あの美しい御顔を真っ青にして、悩まし気に目をそらしてらっしゃるんだ……それはもう、痛々しくて、とても見ちゃいられない……。それを排除しようってことが神様にとって良くないことなのだとしたら、俺達はいったいどうすればいいんだよ! 俺は神様のためだと思って、信じてこれを盗ってきたんだ、それなのに、なんにも出来ないってのか!」
「待ちなさい、愛しい小さな子供たちよ」
 神父は崩れ落ちるバディンを背に、塹壕の中で彼ら二人の肩に手をかけた。
「閣下、神は我々を咎め立てたりなどしない。私達は神のためを想い、己の生身を危険にさらしてでも、神の悲しみを和らげようとここにやって来た」
 手をかけたまま頭上を見上げると、荒れ果てた空が広がっていた。
「私達はその目的を遂げるべきだ。いや、そうせねばならない。神の御心を揺るがす悪魔を退治し、そして神の嘆きの前に身を預けよう」
 神父は小声で話を続けた。
「神は泣いて下さるであろう、我々のために。そして我々の犯した罪のために。我々の行為は許されなくとも、我々の魂は赦され、浄化される」
 男達は泣いていた。
「我々は神の御心を煩わせるという、大罪を犯す。そして我らはその怒りを受けるだろう。だが、やらねばならない」
「俺は怖くないぜ、どんな怒りを受けたって!」
「愛すべき子よ、純真なる子よ、神の嘆きをその心で受け止めなさい。神の怒りは神の嘆きであり、愛である。わたしは祈ろう。これから先、永遠に、神に安らぎの時が続くように……」
 前方から柱をなぎ倒して、特殊部隊からのマイエル光が飛び込んできた。
「ぐおおっ!」
 言葉にならない声を上げて、貧しい男は跳ね飛ばされた。
「……我らが神……神の平穏のために……」

 一度治まりかけていたかと思われた、マイエル砲の盲滅法な砲撃戦も、ジェルソミーナの飛び入りでいっそう激しさを増しつつあった。
「さすがにやりますわねー、結界師さん」
 シトラビンス准佐はうっとりと呟いた。
「ロードの地下ではキーツ宰相閣下と戦って、押されっ放しとはいえ、打撲傷程度で生還されましたし、やっぱり「南一の防御力」っていう噂は、嘘じゃありませんでしたのねー」
 ほほほほほ、と満足気に笑っているシトラビンスの横で、エナ中尉がまだ両手足のロープと格闘している。しかしどうにか、猿轡だけは外せたらしく、
「分かりませんわっ。どうしてジュンクリフ様は、あの女の横にいるのかしらっ!」
「決まってますわー。ジュンクリフさん、試作機のマイエルがなくなるのを待ってますのよー」
「は?」
 嫉妬に狂い出したエナの頭を、シトラビンスは子猫のように優しくなぜてあげた。
「結界師さんの結界は強力ですけど、惜しむらくは魔法の原動力、精神力を長時間、出し続けられないってことですわー。つまりマイラーであって、ステイヤーではない、って訳ですわね。……最初はその、結界師さんが砲撃を一手に引き受けている隙に、そして精神力が尽きる前に、台座上のドロボウさん達に気付かれないように回り込んで、ドロボウサン達をぱっぱっ、と始末してしまうおつもりだったんでしょうけど、結界師さん、元々からかなり、お疲れだったようですわねー」
 ただでさえ目尻の下がった細い目が、マイエル砲の放射合戦を見て、よりいっそう細くなった。
「ですからジュンクリフさん……」
「だからジュンクリフ様は、ヤツの近くへ戻って来たって言うのっ!」
「あらあ、そんなに怒らないでー」


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