食堂の外へ足を踏み出したベリエールに、
エレノアの小さな歩幅は追いつこうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
「どうした?」
「魔法の特訓と言われても...どうして必要なの?
というかここの人たちは知っているの?
その...貴方が魔法使いだってことを。」
一国の王子が"神の作りし法"に背くものだとしたら、大変なことだ。
しかしベリエールは事も無げに答えた。
「ここを何だと思っている?魔法の国ネプルトゥだ。
この国の民は貧富を問わず皆魔法使いだ。
次期国王となる私の妃となる貴様が魔法を使えなくてどうする。」
ネプルトゥでは祖国アリエローラの常識は通用しないらしい。
本当に自分は知らない国に来てしまったのだと、
エレノアは改めて実感した。
しかしベリエールの両親も、あのメイド達も魔法使いだとは思えなかった。
あの親切なフローズも杖を隠し持っているようには見えなかった。
マムのような使い魔も、もしかしたらいるのかもしれない。
エレノアは歩いている内に、一つの試みを思いついた。
「どうしようベリエール!」
「今度は何だ?」
「私、杖を寝室に置いてきてしまったみたい。
取りに行ってもいいかしら?」
「構わん。魔法を使うのに必要だからな。」
ベリエールの許可を得て、エレノアは元来た方向へ歩き出した。
ベリエールに背を向けながら、エレノアはほくそ笑んだ。
杖を忘れてしまったことが、幸いしたのだから。
杖をとって、マムと一緒にこの城を抜け出そう。
彼女はそう企んでいたのである。
しかし食堂まで来たところで、エレノアは立ち止まった。
フローズに案内された時、どうやってきたか彼女は思い出そうとした。
角を何度か曲がったはずだったので、彼女は前方に延びる廊下を見やり、
とりあえず手前から三つ目の角を右に曲がった。
それから食堂に行く前に衣装室に立ち寄ったことを思い出した。
ところがエレノアは衣装室がどこだったか、
どうやって寝室からそこまで来たのかは覚えていなかった。
彼女は歩きまわりながら、とりあえず適当なドアを開けて、
中を調べていけばいいのだと思った。
さっそく目についたドアノブに手をかけた時、
ドアの表面を大きな影が覆いかぶさった。