ナナミ2 | ハルジオンの腕輪

ハルジオンの腕輪

娘の障害を受け入れながら、母親として日々生活をこなしていく朝香。ある日幼稚園で夢見病の話を聞いて…。母親目線の短編小説

幼稚園に着くと、早速職員室に案内された。

ナナミは延長部屋で預かってもらえるらしい。

 

「お忙しいのにごめんなさいねぇ。どうぞ、お掛けになって。」

 

園長先生がお茶を片手に奥から出てきた。

 

「ありがとうございます…。」

 

「あらー、チアキちゃんずいぶん大きくなって。どうなの?歩けるようになった?」

 

「…いえまだ一人ではなかなか…。」

 

「そっか…でもお母さん療育に通って頑張ってみえるね。

きっと歩けるようになるわ。」

 

「あの…お話というのは…」

 

「そうそう、そうなの。あのね、以前、就学に向けて園の方に教育委員会の方々が

園児の様子を見に来たんだけどね。その時ちょっと、ナナミちゃんのことでね。

学校に入学する前に、一度検査を受けてみないかって…。」

 

「検査…」

 

 

 

ザーー………

 

外はひどい雨になっていた。

雨具を忘れてしまって、ナナミだけ園で貸してもらった。

 

「お母さんも入りなよ。」

 

「……。」

 

「お母さん、濡れちゃうよ」

 

「…ちょっと黙って。」

 

私はこうやって、ナナミにきつく接してしまう時がある。

ナナミがウジウジしていたり、うまく喋れない時に、どうしてもイラついてしまう。

駄目だとわかっていながら、ナナミが反抗しないことを分かっていて、ついやってしまう。

ナナミはナナミで、機嫌の悪い私にはあまり近づかないようにしているようだ。

 

ナナミは発達障害のようだ。

初めは性格だと思った。消極的で、あまり周囲になじめない。

上手く話せないこともあるし、

年長になって、みんな徐々にひらがなを使ってお手紙のやりとりをする中、

ナナミは書きたがらないし、書いても、文字というより記号だ。

今の子達はしっかりしている子が多い。

自分の子供時代のレベルとは違う気がする。

そんな中で生きていくナナミが、少し可哀想に思うこともある。

 

それでも、教育委員会から一度テストを受けろと勧められるほどの発達なのだろう。

なにこれ、夢か?

子供二人が障害児なんて。

ねぇちょっと…、そんな人いる?

なんでうちだけ?

なんで?

私、前世で犯罪者だったのかな。

こんな仕打ち、ある?

 

「…あはははは!」

 

そのキラキラした笑い声に立ち止まって振り向くと、

反対車線の歩道で、親子四人で歩く家族がいた。

子供が三人。

一人はナナミと同じクラスのキアラちゃんだ。

年子で大変だと、この間キアラちゃんママが言っていた。

小さな男の子二人は、おそらくキアラちゃんの弟たちなのだろう。

三人立派にきちんと産んでいる。

私はどうだろう。

二人産んで、二人とも障害児。

……なんで……。

もう、歩くのさえしんどくなった。

ずぶ濡れになりながら立ちつくす私を見て、

ナナミは呆れ顔になり、側溝でカエルを探し始めた。

 

ザー………

 

ザー……

 

…ザッ、ザッ…

 

「…?」

 

知らぬ間に、目の前に少年が一人立っていた。

小学生だろうか…

パーカーのフードを深くかぶっていて、顔が見えない。

それに、ずぶ濡れだ。

 

「どうして、泣いてるの?」

 

「え…」

 

「どうして泣いてるの?」

 

そう言うと、男の子が近づいてきて、

私の腕を持つと、ブレスレットをまじまじと見た。

 

「……こんな素敵なことなのに。」

 

そう言って涙を流した。

ぎょっとしていると、

男の子が少しずつ大きくなっていく。

 

「え…え…!……ええ!?」

 

男の子がニヤリと笑った。

 

「な!…な!…ナナミぃ!」

腰が抜けそうになりながらも、

ナナミの手首を急いでとり、走って家に急いだ。

 

 

「はあ!はあ!はあ!」

急いで玄関のカギを閉めた。

こんなに全速力で走ったのは何年ぶりだろう。

というか、あれってお化け?妖怪?

初めて見た!怖い!

え、追ってきてない?

玄関のすぐそこまで来てない?

振り向いたら、後ろにいたとかない?

辺りをきょろきょろしていると、

ナナミが言った

 

「お母さん……小さっ。」

 

「え!なに!?はあ…はあ」

 

「お母さん、私と同じになってる。」

 

そう言われてナナミを見ると、すぐに目線が合った。

自分を見る。

半袖が、長袖になっている。

……ズボンの裾がルーズソックス状態だ。

……あの男の子が大きくなったんじゃない。

私が小さくなったんだ!!!!