バッハの無伴奏チェロ組曲、Eup版・Hr版
バッハの「無伴奏チェロ組曲」は名曲としてご存知かと思います。この曲はチェロ以外にもいろいろな楽器で演奏されており、管楽器によるものもたくさんあります。私の知っているかぎり、アルトリコーダー、フルート、テナーサックス、バリトンサックス、ファゴット、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバによるものがあります。
管楽器でこの曲を演奏する場合、問題になるのはブレス位置で、チェロでは(ブレスがいらないので)演奏可能な曲でも、管楽器で演奏するとなると、ブレスが取れなくてまともに演奏できないことが多いのです。ですからブレスをどう取るかは、この曲を演奏する管楽器奏者にとって永遠の課題と言えるかもしれません。
ここでは、私の持っているCDの中から、ユーフォニアムによるものとホルンによるものをご紹介します。
●ケヴィン・トンプソン Kevin Thompson(ユーフォニアム Euphonium)
「EUPHONIC BACH」
・無伴奏チェロ組曲1、5番/無伴奏フルートのためのパルティータ/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ2番(ユーフォニアム版)
http://musico.jp/contents/contents_index.aspx?id=r7QKWW&afl=bsearch.goo.ne.jp
(上記サイトから試聴とダウンロードができます。私はCDが欲しかったのでネットで探したのですが、国内では扱っているサイトが見つからず、米国amazonのマーケットプレイスで買いました。)
これは驚異の演奏です。管楽器奏者でなければ演奏を聴いてもどこがすごいか気がつかないと思いますが、なんとブレスなくずっと吹き続けているのです。「循環呼吸」を使って。どこで息を補っているのか全然わからないほど巧みです。
循環呼吸とは、最初は普通に楽器を吹いていて息が少なくなってきたとき、息をほっぺたに溜めてほっぺたの力で息を出しつつ、のどを閉めて鼻から息を吸い、また普通に吹く(この一連の作業を一瞬で行う)という高度なテクニックです。もちろん誰にでもできるものではありませんし、伸ばしの音ならいざしらず、このようなテクニカルな曲で、循環呼吸を使いつつ最後まで途切れずに吹き続けるというのは恐るべきテクニックと言えます。
ユーフォニアムは音域的にチェロと近く、原調のままこの曲が演奏できるのが良いところです。ただ、チェロ版を聴きなれていると、ユーフォ版を聴いたとき、やはり音色的に物足りないなぁ、という気がしてしまいます。これはチェロの音色よりユーフォの音色が劣っているというわけではなく、この曲に一番合うのは(当たり前ながら)やはりチェロだなあ、と感じてしまうということです。
循環呼吸による演奏自体はすごいのですが、どうも何回も聴いていると飽きてしまいます。それはこのケヴィン・トンプソンの演奏に、あまり魅力がないからなのでしょう。とはいえ、無伴奏チェロ組曲を途切れなく演奏できるのは管楽器奏者にとっては夢なので、この演奏は非常に貴重な存在です。
●ラデク・バボラーク Radek Baborak(ホルン Horn)
・無伴奏チェロ組曲1、2、3番(ホルン版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000WM83TQ
・無伴奏チェロ組曲4、5番/無伴奏フルートのためのパルティータ(ホルン版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000WM83U0
超絶技巧の天才ホルン奏者、バボラークによる無伴奏チェロ組曲。この演奏では、ちゃんとブレスを取っています。でもそれが音楽的に納得できる位置・タイミング・長さで行っており、全く不自然さを感じません。むしろ管楽器による演奏ならこちらのほうが自然と言えるかもしれません。
バボラークも循環呼吸による全曲演奏は可能ですし、曲の一部分では循環呼吸を使っているようですが(ノドを閉める「クッ」という音が聞こえるところがある)、あえて音楽性を考えてブレスを取っているようです。さすが超一流奏者だけに、演奏が考え抜かれている気がします。ホルンの音域のため、原曲より4度高く移調されていますが、それが気にならず、逆にホルンのために書かれた無伴奏曲と言っても遜色がないくらい、不自然さがありません。音色的にもホルンの柔らかい音がこの曲に安心感を与えており、無伴奏チェロ組曲を管楽器で演奏するときのお手本となるべき演奏と言えるのではないかと思います。
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