二月手を垂れてゆくをとこ見ゆ 柴田白葉女 『冬泉』

雲の中鳴く鳥ありて二月 米沢吾亦紅

よべの雨に家々ぬれて二月 内田百間

カレンダーの巻癖とれて二月 種市清子

ちらちらと空を梅ちり二月 原 石鼎

男にもある更年期二月 森松 清

折鶴の紙にもどらぬ二月 友松照子

二月男女異なる時計見て 斉藤四四生

荒波をかすめ来し風二月 印南頼子

風邪の目に雪嶺ゆらぐ二月 相馬遷子

光りつつ鳥影よぎる二月 小沢 明美

雪原の靄に日が溶け二月 相馬遷子

くちびるにくちびる残り二月 谷口桂子

かごめかごめ振り向く鬼に二月 柴田奈美

束の間のかげろふ立てば二月 森澄雄

二月天城山葵に涙して 細見綾子

二月江差追分なら聞こう 池禎章

古傷を医師に問はれし二月 大室易子

ほどほどに手足を使ひ二月 長谷川双魚

二月臙脂は妻の好むいろ 友岡子郷

犬の耳臭くなりたり二月 龍岡晋

菜をひたす水のあかるさ二月 井上雪

石の鹿灯袋を駈け二月 伊藤敬子

嬰児の一髪なびき二月 和田悟朗

ますぐなる幹に雨沁む二月 福永耕二

瀬頭に息あはせをり二月 佐藤鬼房 潮海

厨芥車滴り長し二月 沢木欣一 雪白

橘や蒼きうるふの二月 三橋敏雄 *シャコ

二月風より殖ゆる鳥のかず 原裕 新治

ほどほどに手足を使ひ二月 長谷川双魚

いま割れしばかりの岩ぞ二月 飯田龍太

二月利休の心温ねけり 阿波野青畝



「二月尽」は、今ではれっきとした季語であるが、まず初めに九月尽が季語として登場、その後に二月尽も季語資格を得たということを聞いたか、読んだことがある。
「○月尽」は二月と九月のみ利用可のはすが今ではそれ以外でも用いられている。

白波が白波追へり九月尽 千田一路

うす霜のむぐらが門に九月尽 細谷源二

妻病みて目尻の乾く九月尽 穴井 太

昨日よりくらき白山九月尽 阿部完市

九月尽瓦漸く鋭き色に 宇佐美魚目

真昼野に焚く火透きけり九月尽 富田直治

まが雨の降りもつづきて九月尽 佐藤鬼房

九月尽胸あつくなる風邪ぐすり 古沢太穂

かんがふる一机の光九月尽 森 澄雄

命綱すぐ手のとどく九月尽 角川源義『西行の日』以後

ガラス器を磨きてしまふ九月尽 種市清子

真昼野に焚く火透きけり九月尽 富田直治

少年の商才かなし九月尽 楠本憲吉

大の字に寝て一畳の九月尽 土生重次

パソコンでつける家計簿九月尽 満田春日

会議室海の絵も寂び九月尽 村田 脩

雲表に山々ならび九月尽 福田蓼汀

まが雨の降りもつづきて九月尽 佐藤鬼房

真昼野に焚く火透きたり九月尽 富田直治

九月尽まぶしきものを一日見ず 和田祥子

かんがふる一机の光九月尽 森澄雄

雨降れば暮るる速さよ九月尽 杉田久女

九月尽日許六拝去来先生几下 高浜虚子

少年の商才かなし九月尽 楠本憲吉

井の端の風露の乾き九月尽 菅裸馬

九月尽机の端に手紙かな 高浜虚子

九月尽遥に能登の岬かな 暁台

かんがふる一机の光九月尽 森澄雄

雨降れば暮るる速さよ九月尽 杉田久女

雲表に山々ならび九月尽 福田蓼汀

古寺に狂言会や九月尽 雁宕

九月尽深き曇りに鳥飛ばず 相馬遷子

少年の商才かなし九月尽 楠本憲吉

傾城の小哥はかなし九月尽 宝井(榎本)其角 (1661-1707)

六尺の人のけむりや九月尽 攝津幸彦

九月尽深き曇りに鳥飛ばず 相馬遷子 山河

月影の不破にも洩らず九月尽 黒柳召波 春泥句集

褌に贈別の詩や九月尽 黒柳召波 春泥句集

古寺に狂言会や九月尽 雁宕 五車反古

命綱すぐ手のとどく九月尽 角川源義

頼政の月見所や九月尽 榎本其角

傾城の小哥はかなし九月尽 宝井(榎本)其角

二月尽では江戸俳人の例句は登場しないが、
九月尽では其角の句が登場する。
さらに言えば、芭蕉、蕪村、一茶の例句はない。



「三月尽」は極端に例句が少なくなる。

三月尽船ゆつくりと夕闇を 大井雅人

ポストまで通ふ日多し三月尽 馬場利春

街川に水輪増やして三月尽 下山宏子

あり暮らす三月尽の草戸哉 松瀬青々

三月尽校塔松と空ざまに 石田波郷

三月尽兄妹いつまで倶にあらむ 石田波郷

『俳諧歳時記』では「九月盡」のみが季語として扱われ、上掲の句を含む其角の句が4句紹介されている。『ホトトギス歳時記』にはその9月尽さえ採録されていない。というより、(紙数の関連で)「二月」「九月」の派生語として扱われているのかも。


試しに四月尽で検索。

意外や意外、かなりの例句登場。


翻訳劇の舞台が底に四月尽 高田律子

夢に浮く身風呂にしずむ身四月尽 江里昭彦

娶る子に渡す臍の緒四月尽 池田博子

夜具の下畳つめたき四月尽 橋本多佳子

四月尽兄妹門にあそびけり 安住 敦

あまき音のチエロが壁越し四月尽 秋元不死男

四月尽易きにながれゐたりしか 恩賀とみ子

詰襟のやうやく馴染み四月尽 兼安昭子

白雲へ杉まつすぐに四月尽 寺井治

あまき音のチェロが壁越し四月尽 秋元不死男

こけし買ふ数の恋しく四月尽 石田波郷

こんこんと眠る流木四月尽 秋澤猛

虎杖をむかし手折りぬ四月尽 石田波郷

草ひきし泥手のままの四月尽 細見綾子

喜捨もせしズックを脱げり四月尽 山口風樹

わが書屋わが掃き坐り四月尽 亀井糸游

夢に浮く身風呂にしずむ身四月尽 江里昭彦(1950-)

肩の骨外れたままに四月尽 宇多喜代子

四月尽朱の箸流れくることも 飯田龍太

ねばならぬもののみ増えて五月尽 加藤瑠璃子

子をよべば妻が来てをり五月尽 加藤楸邨

五月尽旅はせずとも髪汚る 中嶋秀子

五月尽ものぐさ癖のぬる朝湯 永井龍男

するに今では
何月でもいいのである。
「五月尽」という独立の季語があるとは言えないが、
「五月」は季語だからそれが尽きる日を指す言葉ももちろん季語ということになる。

「一二月尽」だってダメだとは言えない現況と判断。

今日のミモザ  このお宅のものは満開


あと1本、別のミモザ。7分か8分。