*当シリーズの趣旨については、プロフィールを参照してください。

 

因果関係を見極めてから監訳せよ:たかが五文字、されど五文字(問)

 

ウィルモット『大いなる聖戦・第二次世界大戦全史』(国書刊行会)

の訳出過程での誤訳検証を続ける。

 

以下の原文は、1942年夏の東部戦線で、戦況がドイツ軍に有利に展開する中で、同年七月にスターリングラードを急襲して奪取する機会があったにもかかわらず、ヒトラーが機甲部隊の一部に方向転換させて、その機会を逸することとなる決定を下したことについて論じた部分である:

 

Neither this campaign nor the entire war was decided as a result of a single operational decision, however important, yet there is no escaping the conclusion that this particular decision was crucial in the unfolding of events because its effect was to throw away a very real chance that the Germans had in mid-July of seizing Stalingrad by a coup de main before the Soviets had time to prepare the city for an assault and to move formations from the reserve into the region.

 

次に、小生の元の訳を修正した監訳者の訳を掲げる:

 

監訳者の修正訳:この決定が重要なものであったにせよ、作戦上でのこの単一の決定によって東部戦線での夏期攻勢、ましてや戦争全体の帰趨が定められたことなどはあり得ないが、それでも、この決定がその後の事態の展開に決定的な影響を与えたことは疑いない。ソ連軍がドイツ側の攻撃に対応するためにスターリングラードの備えを固めて同地域に予備軍を移動させる時間の余裕を与えずに七月中旬にスターリングラードを急襲して奪取できる機会がドイツ軍にはあったにも拘らず、この決定によってその機会を放擲することとなった。

 

小生の元の訳との相違は微々たるものであり、たった五文字が削除されただけである。だが、小生の考えでは、その五文字がなくされたことで、読者にとって文意が取り難くなっている。

 

問:小生の元の訳では、どこで、どのような「五文字」が書かれていたのであろうか?

 

ヒント:原文での主節と従属節を繋ぐ接続詞に注目すべし