*当シリーズの趣旨については、プロフィールを参照して下さい。

 

「that」で始まる節が複数ある文:並列か因果関係か

 

ウィルモット『大いなる聖戦・第二次世界大戦全史』(国書刊行会)の訳出過程に於ける誤訳検証を続ける。

 

今回は、原文及び二つの訳文を以下に提示する。文脈としては、独ソ戦初期に於けるソ連南方地域での戦況を論じた箇所である。

 

原文:. . . the fact that the 5th Army remained unreduced on the left flank and that a 200-mile gap threatened to develop between Army Group South and Army Group Centre as both emerged east of the Pripet Marshes aroused obvious and well-justified misgivings within the German high command.

 

訳文①:ソ連第五軍が左翼に健在であることや、中央軍集団と南方軍集団が共にプリペト沼沢地の東方に出てきたために両軍集団の間に二百マイルもの間隙が生じる恐れが出てきたことにより、明らかにドイツ軍指導部の中には事態を憂慮する向きが出て来ていて、これには無理からぬ面もあった。

 

訳文②:ソ連第五軍が左翼に健在であることや、中央軍集団と南方軍集団が共にプリペト沼沢地の東方に出てきたために両軍集団の間に二百マイルもの間隙が生じる恐れが生じ、明らかにドイツ軍指導部の中には事態を憂慮する向きが出て来ていて、これには無理からぬ面もあった。

 

一読すると、大した違いはないように思われるかもしれないが、注意深く読んでみれば、大きな相違があることに気付く筈である。

 

原文と対照してみて、いずれが妥当(若しくは正確な)訳であろうか?

 

ヒントは、冒頭の見出しで言ったように、thatで始まる名詞節の扱いに注目することである。