*当シリーズの趣旨については、プロフィールを参照してください。

 

前回出した設問には、問の性質上確固とした正答などないので、以下に記すのは飽くまで小生の意見である。

 

R.A.F Priorities Set

 

という見出しを如何に訳すかという設問に、ヒントを四つ出しておいたが、その中で答を出していなかったヒントについて解説する。

 

ヒント(3):Setの品詞が何かをよく考えよ。⇒「セット」と発音すると、ついつい「モーニング・セット」のような名詞と判断してしまいがちだが、新聞の見出しでよく見られる通り、これは動詞setの過去分詞である。つまり、R.A.F.(英国空軍の)prioritiesが「定まった」といいうような意味になろう。

 

ヒント(4):見出しが包摂する部分からの抜粋部分。以下に、小生の訳を付す。

 

After the 18 December raid its daylight operations were curtailed drastically and emphasis was placed upon night operations. In the winter of 1939–1940 these consisted of dropping propaganda leaflets rather than high explosives on German cities, . . .(十二月十八日以降は昼間の爆撃作戦の規模は大幅に縮小され、重点は夜間の作戦に移されていった。一九三九年から翌年にかけての冬期間に行われた夜間作戦はドイツの諸都市に爆弾を投下するよりは宣伝用のビラを散布するものであった・・・)

 

When the German attack in the west began so, too, did Bomber Command’s night offensive against German cities. The first British raid in a campaign that was to last almost five years was mounted on the night of 14–15 May 1940 against communications and military targets in the Ruhr.(ドイツ軍が西部戦線での攻勢を開始すると共に、英爆撃軍団もドイツの都市部への夜間爆撃を開始することとなり、それ以降ほぼ五年間にわたって継続される英国の爆撃作戦の口火を切ったのは、ルール地方の交通・軍事目標に対して五月十四日から十五日にかけての夜間に敢行された爆撃であった。)

 

. . . its main efforts were directed against aircraft and aluminium factories in western Germany and shipping concentrated in German and Channel ports for the proposed invasion of southern England.(夏期の間に主に攻撃対象としたのはドイツ西部の航空機やアルミニウム工場、そして、英国南部への上陸作戦用にドイツ及び海峡地域の港湾に集結させられていた舟艇群であった。)

 

A further directive of 13 July restored Germany’s aircraft industry as Bomber Command’s priority target, but this was changed by yet another directive of the twenty-fourth that presented Bomber Command with a mix of targets. This constant switch of operational priorities throughout the summer of 1940 partially explains the ineffectiveness of Bomber Command’s operations . . .(七月十三日に出された指令では優先目標が再びドイツの航空産業関連施設とされ、そして同月十四日には別の指令で以て複数種の目標を狙うよう命じられるのである。英爆撃軍団による作戦が上陸用舟艇に対する攻撃を除いて余り成果を挙げなかったのは、このように作戦上の優先目標が猫の目のように変更されていったことが理由の一端となっていたのであり)

 

長々と引用したが、この箇所で何が論じられているかを説明するためには必要と判断したがためである。

 

例によって、小生と監訳者の訳を提示する:

 

小生:英空軍の優先目標の推移

 

監訳者:英空軍の優先順位の設定

 

この監(閑)訳者は、原文を余り読んでいないことが明白であったが、ここは少しは読んだ様である。そして、以前recastという単語を含む見出しを論じた箇所当シリーズ(6)参照)でなしたような、品詞を見誤ることはなく、文法的には正しい訳をしている。

 

これに対して小生の訳は、setを正しく訳していないと批判されそうである。

 

だが、敢えて小生の訳の方が適訳であると言いたい。

 

第一に、監訳者は「優先順位」と言っているが、上記の抜粋部分から分かるように、英空軍はその時々に置いて重点を置くべき爆撃目標を設定しているのである、「これが一番、これが二番・・・」といった優先目標の順位を定めているわけではない。

 

第二に、「設定」と言ってしまうと、英空軍が当初からはっきりした爆撃目標を決めていたかのような印象を読者に与えかねないが、上記抜粋部分から明らかなように、英空軍の方針は常に変化していったのであり、内容を反映したものとは言い難い。

 

もっとも、小生の当初の訳も、何の「優先目標」だったのかを明示していなかったので、舌足らずであったかもしれない。

 

そこで、小生は初校の段階で「英空軍の空爆優先目標の推移」との修正案を出した。