単語の意味:頭では分かっていても・・・

 

まず、監訳者の修正版の訳から紹介する。正直に認めるが、初校で以下のようになっていたのを小生も見落とし、再校を見た時にやっと気が付いた次第である:

 

「長年ダンチヒへのドイツ側の対応の仕方で以てドイツ側が自国に対して如何なる意図を有しているかを測るための目印としてきたポーランドは、・・・」

 

文脈は、第一次大戦の結果としてポーランドに割譲した領土をヒトラーのナチス・ドイツが返還を求めて圧力をかける中で、ポーランドがソ連と同盟関係を樹立するか、ドイツとの妥協を探るか、西側との連携を図るかといった選択肢に直面していた状況を記した箇所で、この後には「ドイツとの対ソ同盟関係の樹立と東方で代替地を得ることと引き換えにダンチヒをドイツに返還するという魅力的とも言える提案を退け、返還交渉に応じることはなかった」という一節が続く。

 

問題は、下線を引いた「目印」なる言葉である。原文では以下のようになっている:

 

Long accustomed to regard Danzig as the indicator of Germany’s intention towards themselves, the Poles . . .

 

「目印」なる言葉、この文脈でのindicatorの訳として適当であろうか?

 

ここでは、どうやら監訳者は原文を読んだようである。恐らく、「試金石」となれば英語ではtouchstoneであり、indicatorの和訳として辞書では見当たらないがために、「試金石」とすることに躊躇いを覚えたのであろう。

 

だが、あまりに直訳過ぎる。

 

翻訳をする者、英語力・読解力に長けていなければならないが、このような場合に必要となるのは、英語では理解できている内容を如何にして分かり易い日本語にすることであり、ここが腕の見せ所であろう。

 

一つの方法としては、原文の文章・文節構成に拘泥することなく、日本語らしい表現に意訳することである(例としては、当講座「その13」を参照)。だが、この場合には、その手法は難しく、indicatorはそのまま名詞として訳すしかあるまい。

 

小生は「試金石」と訳していた。こういった場合、逆に「試金石」を国語辞典などで引いて、如何なる意味があるかを検討してみてはどうであろう?

 

手っ取り早くWikipediaから引くが、「金の品質を計るために用いられる主に黒色の石英質の鉱石」という説明が冒頭にある。そして、しばらく見ていくと「物事を判断する基準(指標)の意味で用いられることもある」となっている。

 

この場合の「指標」は正にindicatorの和訳と言えるのではないであろうか?

 

若干自画自賛になるが、小生がWikipediaで「試金石」の意味を調べたのは、訳した当時ではなく、今回の「講座」を書いた時であり、小生の訳の正しさを改めて確信した次第である。