自分の訳文を読み返せ。常識感覚を働かせよ。

 

今回は最初に、監訳者が小生の訳文を修正したものを提示する。文脈としては、俗に「バルジ大作戦」と呼ばれるドイツ軍のアルデンヌ攻勢の前段について述べた部分である。例によって、問題がある箇所に下線を付す:

 

「当時米軍は八十五マイルにわたるそのアルデンヌ地区を他の戦域で戦った部隊の休息と新着師団の戦闘の場所と定めていた

 

さらっと一読しただけなら、そのまま読み過すであろうが、二度・三度読んでみたら違和感を覚えるであろう。アルデンヌ地区を「部隊の休息」と同時に「新着師団の戦闘の場所」にするというのは、どう考えてもおかしい。

 

原文は以下の通りである:

 

the Americans had used the eighty-five miles of the Ardennes sector as an area in which to rest formations after action on other parts of the front and to introduce new divisions to combat, , , ,

 

どうやら、(珍しくも)監訳者は原文を少しは読んだようである。だが、to introduce new divisions to combatの部分を読み誤ったのであろう。to introduceはこの文脈では「導入」のような意味で、戦闘に向けて「準備させる」(つまりはオリエンテーションのようなもの)ぐらいに訳せばよいものであるが、それを監訳者はいきなり戦闘に「曝す」ような意味に誤解したのであろう。このような単語の意味の誤断は、翻訳に慣れていても起きるかもしれないが、文脈に照らしてみればおかしいことにすぐ気が付く筈である。それ故に、一文一文毎にとは言わないが、パラグラフ毎、そして最低でも章毎には自らの訳文を読み直す習慣をつけていれば、このような間違いは起きないであろう。

 

因みに、小生の元の訳文は以下の通りである:

 

「当時米軍は八十五マイルにわたるそのアルデンヌ地区を他の戦域で戦った部隊を休息させるのと新着師団を戦闘に備えさせるための場所と定めていた」