火星發動機用の整備要具、

関西スピンドルと京都機械の2社が生産

 

 

【2025年3月24日 追記】

関西スピンドル製の内部要具箱が見つかっていましたが、新たに京都機械製の同じく内部要具箱が見つかりました。

したがい、火星発動機用の工具は、関西スピンドルと京都機械の2社が生産していたことになります。

また、先に見つかっていたスパナ(内部要具6番/19x21)の裏面刻印が読めずにいましたが、"関"に似ていることに気付きました。

したがい、このスパナは関西スピンドル製で間違いないだろうと思います。

火星發動機の整備要具を関西スピンドルと京都機械の2社が作成していたことが分かったことから、情報量を増やして全面的に書き直しました。

 

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1.スパナ

↑サイズは19x21、表面に"火、○内、6"、裏面には"関"と読める刻印

 

当ブログの読者である"ひでじい"さんより『昨日、火星のスパナを見つけた』と連絡を貰いました。

実物が確認できた海軍向け發動機整備用スパナの6機種目です。

一式陸攻や雷電などに搭載されていた火星發動機向けで、"火 ○内 6"と刻印されています。

"火"より火星發動機、"内"より内部要具であることが分かり、さらに"6"は要具番号になります。(海軍/陸軍では工具では無く、要具と呼ばれていました)

火星發動機の整備要領書で確認すると、内部要具の6番は実物と同様に19x21のスパナであることから、このスパナが火星用であることが整備要領書(後述)からも確認できます。

※これまでに見つかっていたスパナ5種…栄/ゼロ戦、天風/赤トンボ、誉/紫電改、アツタ/彗星。

 

後述するように火星の内部要具箱として"関西スピンドル製作所”製(海上自衛隊・厚木基地所蔵)と"京都機械"製(当ブログの読者所有)の2種が確認できています。

実物が確認できたスパナは、裏面に"関"と読める刻印があることから、"関西スピンドル製作所"製と考えて良いと思います。

火星は一式陸攻や雷電に搭載された発動機ですが、厚木基地には一式陸攻と雷電共に配備されていましたので、このスパナは一式陸攻または雷電の整備に使用されたものと思います。

 

2.要具箱

➀ 火星向け内部要具箱2種 

関西スピンドル製と京都機械製の2種が要具箱の銘板より確認できていますので、火星發動機の整備要具はこの2社で生産されていたことが分かります。

2種の要具箱は基本形状は同じですので、海軍の指定形状と思います。

但し、取っ手が関西スピンドルは左右一つづつ、京都機械は左右2つづつの差がありますので、要具箱の生産自体はそれぞれの会社が行っているものと思います。

さらに大きな差が2点。

1点目は銘板での機種指定で、関西スピンドル製は『火星内部要具』、京都機械製は『火星一○型内部要具』になっています。

京都機械製は『火星一○型』用であることから一式陸攻向けであることが分かります。(雷電の発動機は火星二○型)

なお、関西スピンドル製は火星の型式が指定されていませんので、一式陸攻向けと雷電向けのいずれか、または両方向けの汎用と考えられます。

(紹介記事では根拠が不明確ながら厚木にあった雷電の第302海軍航空隊関連と推測されているとのこと)

2点目は火星エンブレムの銘板で、字体が大きく異なりますので、両者製を見分けるための大きな特徴になっています。

なお、内部要具箱は2つで1セットになっていて、関西スピンドル製は2つ目(2/2)、京都機械製は1つ目(1/2)が見つかっています。

ちなみに、内部要具は発動機のオーバーホール専用で、別に外部要具(一般整備用)もあります。

  

↑"関西スピンドル製作所"製

↓"京都機械"製
  

※両者の詳細は次項にて。

 

 

 

➁ "関西スピンドル"製の火星内部要具箱

海上自衛隊の厚木基地に付近住民から寄贈されたとの航空ファンの記事で見つけました。⇒ こちら

 

↓航空ファンの記事抜粋

 

 

 

 

銘板を見ると『関西スピンドル 第 號』と印刷されているのがうっすらと確認出来ますので、"関西スピンドル製作所"製と分かります。

『第 號』には製造順連番が刻印されるようになっていますが、無記載のままです。

また、『関西スピンドル』の右側に『昭和 年 月製造』と印刷されていますが、これも無記載なので、製造時期は確認できません。

さらに、2つの間に短い記載枠があり、製造メーカー記号などが刻印されるようになっていますが、ここも無記載のままです。

※3カ所が無記載で、刻印も印字も無いことを厚木基地に改めて確認して貰いました。

 

整備要具箱の実物として京都機械に引き続き2社目です。

実は、京都機械の社史『京都機械35年の歩み』に気になる記述がありました。

『関西スピンドル製作所も空技廠の技術養成を受けていたが、京都機械が同社を引き離した』

この一文にだけ葛藤に同業者の名前が出てきて、何かあるのかと思っていたのですが、当時の日本で最高峰の技術集団であった海軍・空技廠は、京都機械だけで無く、関西スピンドル製作所も海軍向け工具製造工場として養成していたと言うことなのだろうと考えています。

『引き離した』の意味は、ゼロ戦向けとして先に受注した、また多くの受注を得たということを暗に言いたかったのだろうと思います。

ちなみに、京都機械もそうですが、工具会社だけが工具を作っていたわけでは無いことが分かります。

むしろ、戦前の工具会社は多くが小規模で、軍隊の要求品質に沿った工具一式を納める能力は無かったのだろうと推察しています。

関西スピンドル製作所の会社詳細については後述します。

 

厚木基地にお願いして寸法を測って貰いました。

↑関西スピンドル製の寸法

 

京都機械の要具箱も寸法を測って貰いました。

蓋の台形形状上側の寸法(200と250)だけが異なっていますが、その他はほぼ同一です。

海軍が基本寸法を指定し、それに基づいて両社がそれぞれ自製したのだろうと思います。

↑京都機械製の寸法

 

★海上自衛隊・厚木基地の広報資料館に展示されている関西スピンドル内部要具箱

↓厚木基地ホームページより

 

外部要具箱も見つかっています。

残念ながら、これも中身は無く、火星以外の銘板も無いため、製造者は不明です。

しかしながら、火星のエンブレムが関西スピンドルの内部要具箱と同一ですので、この外部要具箱も関西スピンドル製と考えて良いと思います。

 

 

➂ "京都機械"製の火星内部要具箱

スパナと同じく当ブログの読者である"ひでじい"さんから情報を貰いました。

京都機械製の火星用・内部要具箱も見つけたとのこと。

 

 

 

・"京機250號"より京都機械製で250基目と分かります。

・また、製造が昭和18年/1943年6月と記されています。

・KTCに展示されている天風/赤トンボの内部要具箱が昭和18年4月生産ですので、天風用とほぼ同時期の生産になります。

 

・"○京"/一重丸京の刻印からも京都機械製と分かります。

・錨マークより海軍向けと分かります。

・カタカナの"オ"が刻印されていますが、"オ"の意味は確認できていません。

・錨マークと"○オ"がそれぞれ2つ刻印されているのは何故でしょうか?

 

 

・内部は上段(蓋の下)とレール引き出し式(中段、下段)の3段式になっています。

・それぞれの段に何が入っているかは蓋の裏に明細表で説明されています。

・関西スピンドル製は内側が青竹色ですが、京都機械製は表面と同じ緑色(オリーブドラブ)になっています。

・下側のレール引き出しは、色とサイド形状が異なりますので、オリジナルではないようです。

 

★裏蓋の明細表

裏蓋に1/2の明細表が貼り付けられています。

割り振られている要具番号は昭和16年発行の『火星發動機一○型取扱説明書』(後述)と同じですが、1/2と2/2への入れ方が異なります。

例えば51番~59番は京都機械製では1/2の中段に入っていますが、昭和16年の取扱説明書では51番~59番は2/2の上段になっています。

 

 

 

 

➃ "榮”内部要具箱(京都機械製)

 

・榮二○型(ゼロ戦)用の内部要具箱2/3。

・横取っ手が2つ、その取付ブラケットが同一形状など火星用と同一ですので、工具だけで無く、要具箱も京都機械製と考えて良いでしょう。

 

3.銘板仕様について

銘板色が関西スピンドルは青色、京都機械が銀色になっています。

一方で、天風用の外部要具箱で京都機械製が2つ見つかっていますが、青色と銀色であることから、この生産時期の差(海軍の指定変更?)なのだろうと推測しています。

 

 

↑火星銘板、左:関西スピンドル製、右:京都機械製(S18年6月)

 

 

↑天風銘板(共に京都機械製)、左:S18年4月製、右:S18年10月製

 

 

↑天風外部要具箱、共に京都機械製(上部の取っ手の作りに差があります)

↓共にKTCものづくり技術館に展示中

 

↓榮二○型

 

 

4.刻印記号"○オ"について

"○オ"が京都機械製の海軍向け要具6種に刻印されています。

意味するところは不明ですが、京都機械関連の何かを示しているのだろうと思います。

1)京都機械"火星用"内部要具箱

 

2)京都機械"天風用"外部要具箱-1(京都機械所蔵)

 

2)京都機械"天風用"外部要具箱-2(平和記念館所蔵/KTC展示中)

・左の3つが不鮮明ですが、"錨マーク"と"○オ"が2つだと思います。

 

3)京都機械"榮二○型"内部要具箱

・火星用と同じく錨マーク2個、"○オ"、一重丸京。

・製造年月は刻印なし。

 

4)京都機械 搭乗員用"携帯要具"カバン

↓KTCものづくり技術館の展示品

 

 

5)京都機械 アツタ發動機用スパナ

KTCものづくり技術館に展示中の一重丸京/アツタ發動機のスパナにも"○オ"の刻印が入っています。

展示中の5本のスパナの内、"○オ"が刻印されているのはこのアツタだけです。

 

6)京都機械 イギリスレンチ

一重丸京が刻印された海軍向け京都機械製の変形イギリスレンチが見つかっています。

"整8"と刻印されていますので、海軍の汎用整備要具一式の8番だと思います。

これにも"○オ"が刻印されています。

これも"ひでじい"さんからの情報です。

別途、海軍向け変形モンキーレンチとして単独で取り上げる予定です。

 

↑一重丸京の左側に"○オ"が刻印されているのが分かります。

 

5.関西スピンドル製作所について

大阪の繊維機械製造会社で、1930年の創業です。

繊維を撚って糸をつくる際に、撚られた直後の糸を巻き取ってゆくためのスピンドルを昭和初期から製造していました。

Kansai Spindleの"K"と"S"を合体させたロゴが特徴的です。

 

↑左:1931年『紡織界』、右:1933年『大阪模範産業大鑑』

 

戦後、『関西スピンドル(株)』に社名変更し、引き続き繊維機械を作っていました。

現在は土地管理会社になっていますので、廃業して工場跡地の資産管理をしているのかと思います。

↓1962年『日本機械工業名鑑』より

 

繊維機械製造会社として京都機械とは同業であり、あいうえお順が近いため並んで表示されている資料もあります。

 

4.整備要領書

 

★内部要具箱

 

 

★外部要具箱

 

この回、終わり