KTC-17

一重丸京の航空自衛隊スパナ

 

 

 ① 凹帯パネル/一重丸京製 

↓裏面のウイング付き桜マーク拡大

京都機械/一重丸京が航空自衛隊にスパナを納入していました。

表面は市販モデルと同じで、"KYOTO KIKAI CO., LTD."と刻印されています。

裏面の右端に航空自衛他を示すウイング付き桜マークが入っています。

胴長部だけ赤く塗装されていますが、焼付塗装なのか単なる手塗りなのか識別できないので、納入仕様なのか納入後に部隊で塗ったかは不明です。

数十年前に民間に流れ出たらしく、何を整備するための工具とか基地や部隊などは分かっていません。

なお、桜マークの中に"A"が刻印されています。

一般的には単なる桜マークが使われているようですが、どのような時に"A"付き桜マークが使われるのかは情報がありません。

"Air"の"A"で、航空機用と言うことでしょうか?

ちなみに、航空自衛隊の機器工具一般共通仕様書物品管理補給規則を確認してみましたが、言及されていません。

 

このモデルは私に画期的なことを教えてくれました。

京都機械は工具事業を縮小整理することを決めて工員を解雇したことから、工具事業の推進を担っていた3名が独立して1950年にKTCを創業しています。

大口顧客であったトヨタも京都機械からKTCへすぐに発注を切り換えましたので、KTCが独立した時点で京都機械/一重丸京は工具の生産販売から撤退したと理解していました。

でも、1952年3月に制定されたJIS認証のモデルが一重丸京にあるので、JISの先行採用が許されていたのかなと思いながらも長らく疑問を感じていました。

そこに登場したのが、この航空自衛隊モデルです。

航空自衛隊は1954年の創設です。

つまり、京都機械/一重丸京は少なくとも1954年以降も生産販売をしていたことが、このスパナを見つけたことで明確になったのです。

京都機械/一重丸京は、戦前から海軍の指定工具工場でしたので、防衛産業にとっては信頼のおける企業だったのだと思います。

自衛隊モデルを見つけたことを受けて色々と聞き回ってみると、KTC創業後も新たにJIS認証を受けて一般工具を生産販売し続け、1975年頃まで防衛産業を中心に工具事業を継続していた模様です。(情報元:KTC)

少なくとも1950年代には一重丸京と二重丸京の新製品が並んで販売されていたことになります。

 

↑↓6本セット(全ての裏面に桜マークが刻印されています)

↓裏の桜マーク拡大

 

 ② インジェクションスパナ/一重丸京製 

インジェクションスパナと思われる自衛隊向け一重丸京も手に入れました。

これも裏面にウイング付き桜マークwith"A"が刻印されています。

このモデルは、一般向けの一重丸京には無いタイプですので、自衛隊専用かもしれず、貴重品だと思います。

ちなみに、上のモデル①も含めてインチ仕様になっています。

航空機を始め米国払い下げ機器の整備がメインだったためと思います。

 

↑↓6本セット(こちらも全てが桜マーク付き)

 

 ➂ KTC/二重丸京 陸上自衛隊向けタペットスパナ 

・タペットスパナ/品番CTの陸上自衛隊向けです。

・自衛隊スパナは航空自衛隊向けがほとんどですが、陸上自衛隊向けを初めて見ました。

・単体の桜マークが陸上自衛隊向けの印で、中の"W"は武器/Weaponを示しています。

・インチ仕様ですので、アメリカ製の何らかの武器整備用と思います。

・複数の工具メーカーが自衛隊に納入していて、KTCも多くの工具を自衛隊に納めていたとのことでしたが、これまで見たことが無く、KTCの自衛隊向けを今回初めて確認できました。

・4本セットとして保管されていて、正規納入する前のサンプルと思います。

 

 

 ➃ フラットスパナ (松戸工具/M.R.S) 

ダイヤモンドマークの中に"MRS"と"三角形▽が4つ"のロゴが刻印されています。このロゴより松戸工具の製品と分かります。

 

 ➄ コーティングスパナ(昭和スパナ/SDF製) 

スパナ全体がビニール・コーティングされたスパナです。

防爆仕様なのか寒冷地仕様(手の凍り付き防止)なのかは不明ですが、スパナのボルト接合面まで完全にコーティングされています。

これでは締付トルクは確保しにくいかと思いますので、何か特殊な使用目的があるのでしょう。

この桜マークには"A"が追加されておらず、通常の航空自衛隊マークになっています。

"D"と"F"をS字で囲んだ特徴的なロゴより、昭和スパナ製であることが分かります。

【追記】

読者の方から『保管用のコーティングでは無いか』とのコメントを貰いました。

コーティングが付いたままでは締付工具の意味を無しませんので、正解かと思います。

もっとも、ちゃんとメッキしてあれば、よほど管理場所が悪くない限り錆びないとは思うのですが。

↑スパナのボルト接触面までコーティング

↓通常の航空自衛隊マーク

 

 ➅ 凸帯パネルスパナ(池田工業/IKK製)

 

・ウイング付きの桜マークより航空自衛隊向けと分かります。

・楕円IKKと"BTC"の刻印より、航空自衛隊から受注したBTC/バンザイが、池田工業/IKKに製造委託したのだろうと思います。

・青森のリサイクルショップで見つかったとのことで、三沢基地で使用?

・"SM890"は元になっているバンザイ製品の品番で、桜マークと"68S"、楕円IKKは自衛隊納入用に追加刻印されたのだろうと思います。

・"68S"は自衛隊での管理番号または納入年月(1968年?)でしょう。

・"CROME MOLYBDENUM"よりクロモリ製と分かります。

 

以上、航空自衛隊のスパナ5種で、2種が京都機械/一重丸京製です。

航空自衛隊が創設された1954年以降の製品ですが、その古さから5種共に1960年前後に納入された資材かと思います。

最近は、JALやANAと同じように航空機の整備はSnap-on(インチ)が使われていると聞いていますが、統括補給処(各務原基地内の第2補給処)が一括調達した航空自衛隊マーク付きの工具と、基地単位で調達した市販品と同じ一般工具の2種類があるようです。

自衛隊仕様のコンビレンチがあれば喉から手が出るほど欲しいところですが、今は厳しく資材管理されているでしょうから、入手は難しいのかと思います。

工具は直接の機材では無く、マイナーな存在ですので、自衛隊主催のオークション等には出てこないでしょうね。

 

工具類の入札情報を見たことはありませんが、前述の第2補給処の入札公示例はこちら

 

↑最近の沖縄基地の例(自衛隊Facebookより)

 

この回、終わり