水素自動車の FCV が、予測した数字以上の業績を出している事を広く知って頂きたい。
この業績から、当初難しいと思われた FCV の可能性が見えてきた。

今回、 FCV の可能性について私見を交えて、論じたい。

これまで一般的に報道された水素 FCV の将来性に関しては、肯定的なものは多くなかった。
その理由として、以下のような懸念が考えられる。

① 水素ステーションの数が多くない。
② 設備のコストが高くなり、普及の速度に問題が有る。
③ FCV 車の触媒に貴金属である白金を使用しており、コストが高くなる傾向がある。

以下は、FCV 昨年の新車販売実績のデータである。

国内 2,300 台
国外 3,300 台 (アメリカ他)

東京オリンピックでの販売された水素 FCV は、全て旧型であって、中古車である。

従って、新車販売実績の数字に出て来た業績は、東京オリンピックで様に調達された FCV は算入されていない。
単純に FCV の新車売り上げが好調であった、という事ができる。

また、対抗馬であったはずの、ホンダ・クラリティ FCV は、2021 年 9 月、販売を終了している。

以下は、日本国内での FCV 登録台数である。

愛知  1,020
東京   958
神奈川  245
埼玉   200
大阪   129

この数字を見て分かる事は、新車登録は全て水素ステーションが設置されている都市部に集中している事が分かる。
他方で、水素ステーションの設置台数の多い都道府県の順位が、そのまま FCV の登録台数のランキングとなっている。

この事から、水素ステーションの設置数が増加すれば、それがそのまま登録台数と新車販売台数に影響を与える事がこの数字から読み取れる。

産業界では、燃料電池冷凍トラック、と言った様な業務用の車両で FCV を導入する動きもみられる。

これは、例えば冷凍トラックで EV を使用する場合、冷凍機のジェネレーターを回す電力確保のために車体の過半数の部分を電池が占める事になってしまう。

冷凍トラックに EV 車は適していないのである。

リチウム電池は、重量が思い。

経産省は、報道で EV の方が優れている、等とホザいているが、根拠の説明が無い。
リチウム電池は、車重と、車体価格の対部分を占めており、効率性を考えれば、車体の大きさや出力で分岐点がある。

EV は、充電で一定の時間を要する為、時間対生産性の効率も良くない。
また、車体価格の大部分が電池であり、 EV 車の生産台数が増えるほど、日本の電力供給を圧迫する一方、電池の国内調達は出来ない。

本邦電気自動車の電池は大中華に依存しており、販売実績が増えれば大中華が経済成長をする、というメカニズムになっている。
電池生産、原料のリチウムやレアアースは、全て大中華が掌握しており、生産が拡大すればするほど大中華が経済成長をする。

また、日本の道路インフラと、道路交通法にも問題が有る。

全世界で標準となっている貨物の規格である 40 フィート・コンテナは、国内で走行できる道路が限られている。
道路交通法と、高速道路の強度の二つの問題がある。

40フィート・コンテナを牽引するドレージを EV にするとすれば、牽引する40フィートコンテナと匹敵する重量のリチウム電池を搭載する必要が有る。
その 40 フィートコンテナが冷凍の場合、更に電池を大きくする必要がある。

現行の高速道路でこのサイズの車両が通行できる場所は限られている。
また、充電に要する時間と移動できる距離、時間対輸送できる貨物重量の効率と、時間対輸送貨物重量の効率も悪くなる。

ついでに、電池スペース確保のために貨物サイズが小さくなるうえに、道路のアスファルトが陥没する、と言ったインフラ強度の問題を解決する必要もある。

橋梁の強度、トンネルの高さ制限、そして、根本的に道路交通法を構築しなおす必要すらさえある。

当然ながら充電時間と電池の耐用年数、原価償却と、重量当たり、又は体積当たりの輸送コストが高くなる。
貨物 1kg 輸送する為のコストが高くなるうえに時間も増加する、という結果となるだろう。

これは、単純な算数であるが、脱炭素の寝言を話す経産省は、数字を計算しなおす必要がある。

また、 EV 化を進めるにあたり、今後、世界の勢力図は大きく変わる可能性がある。

化石燃料を生産する資源国から、コバルトや、ネオジウム、と言ったレアアースの資源国が今後世界経済の主導的立場になる可能性がある。
その時の日本の立ち位置、戦略、経産大臣の口からは一切聞こえてこない。

このプロセスで、日本が大きく先進国から脱落していくリスクが大いにある。
現経産省を強く批判する。

水素の大量消費社会が来るとすれば、日本は先回りをして、水素の生産や、流通を日本企業が掌握して経済成長をする方法がある。
当ブログでは、日本が産油国になる一つの方向として水素の利権を掌握し、エネルギー産業への設備投資を主張した。

だが、安倍政権で動き出した水素エネルギー産業での経済成長の流れも、脱炭素、 EV と言った支持率ウケを狙ったキーワードを用いて、日本の基幹産業叩き、という方向へ流れが変わってしまった。

そのきっかけは、前環境相と、現政権、そして、現経産省であろう。
等しく罪があるとご認識頂きたい。

FCV の活路は、産業用の輸送車両であろうか。
また、この数字から判断すれば、プレミアム電気自動車としての市場性が EV よりも FCV の方に可能性がある、ともいえる。

この、プレミアム電気自動車の件については、次の項目で説明したい。

メルセデスのプレミアム EV 車コンセプト

メルセデス・ベンツは、新しい電気自動車のコンセプトを公開した。

① 航続距離が 1,000km 以上の電気自動車。
② 効率と航続距離を備えた次世代の電気自動車のコンセプトを確立する。

これ等のコンセプトを備えた、次世代の電気自動車のコンセプトを発表した。

「メルセデス・ヴィジョンEQXX」である。

メルセデス・ヴィジョンの電池容量は、 1,000kWh で、エネルギー密度は 400Wh/L である。
電池モジュール全体の数字であり、単純にテスラ車との比較は出来ない。

また、重量は 495kg である。

とはいえ、 100kWh の電池を搭載しているテスラ社の、モデル S の電池重量は 700kg である。
メルセデス・ヴィジョンは、 450kg である為、単純に重量当たりの電池出力はメルセデスの方が高い。

上の項目で冷凍トラックを EV 車にした場合の車重の話をした。

EV 車は、シャーシに電池とモーターを乗せただけの簡素な構造である。
スポーツカーや、トラックなどの高出力車を作る為には、電池を大きくして、高出力モーターを装備する。

しかし、モーターの大きさと高出力には限界があり、高出力や、大型化を求めると、車重の過半数の割合を占める電池が大きくなってしまい、つまり、重くて走らなくなってしまう。

どこまで高出力が出来るか、大型車両が出来るのか、というのは、 EV 車では限度があるのである。
例えば、重量級の戦車を EV で作ったり、大型船のタンカーを EV には出来ないのである。

その原因は、車体に占める電池重量と、価格の割合が大きく、大きくするのには限度がある、という事が原因である。
EV の普及には限界があるのである。

私が着目している水素の将来性は、この、 EV の限界に着目しているのである。

②の、効率性について更に見て行きたい。

この電池で、航続距離 1,000km を実現するためには、単純計算で電費は、 10km/kWh 以上を達成する必要がある。
現状のモーターでは、 6 ~ 7km/kWh である。
100kWh の電池で航続距離 1,000km は不可能、という事になる。

メルセデスでは、効率的なモーターを開発する、と発表している。

今回開発されるモーターは、 eMoters と命名されており、最高出力は 204hp である。

炭化ケイ素半導体を用いた新テクノロジーを使用する。
因みに、炭化ケイ素半導体 SiC は、通常のシリコン半導体よりも高い電圧や電流に耐える。

ご存じの通り、銅や鉄等の物質は電気を通す。
導体と呼ばれている。

ゴムやプラスティックは電気は流れない。
これを絶縁体という。

流れる電流出力は、より少なくなるものの、部分的に電気を通す物質を半導体、という。
伝導率の違う、違う種類の半導体をスライスし、それぞれ貼り合わせ、電極を作る。
そして、電極に一定の電圧を加えて、一定の周波数の電流の波形を流す。
そうすると半導体は、その波形を増幅する、という特徴を持っている。

古くはゲルマニウム等の鉱石が使用された。
そして、時代は伝導率を調整できるシリコンが主流となり、現在に至る。

現在研究されている半導体物質は、「炭化ケイ素」や、「窒化ガリウム」であり、技術は開発途上にある、と言える。

シリコンに変わるパワー半導体として、窒化ガリウム半導体の開発が進んでいる。
半導体は、部分的に電流を流し、その他は熱となって放出する。

大きさによって、かけられる電圧の孵化に限界がある。
過熱して物質が滅損するからである。

窒化ガリウムは、小さなサイズであっても、シリコンより高い電圧の負荷がかけられる事が知られる。
パワー半導体と呼ばれる所以である。

窒化ガリウム半導体を使用したモーターで EV 車を開発する流れは、 BMW 社で進んでいるが、今回メルセデスのテクノロジーはこれに対抗しているとみられる。

日本では、窒化ガリウムのコストが高く、 EV 車に搭載するのは時期尚早という認識が根強い。

窒化ガリウムを使用したプレミアム電気自動車に対抗して、高効率、長い航続距離、という利点のコンセプトを強調した水素 FCV は十分に優位性がある。
レクサスというプレミアム・ブランド力があれば、 FCV で十分戦える、と私は考えている。

日本メーカーは、販売台数の多い量産車の生産を主眼に置いての開発を見ている。
しかし、統計をご覧いただくとお分かりであろうが、新車販売台数で上位10位以内に入る EV 車は、いずれも安価な中国捨である。

テスラ社ですら、中国工場で日本を含めたアジア市場向けに EV 車を投入しているのである。
昨年、ホンダも EV 車の生産拠点を中国にする事を発表した。

日本回帰を、と言われている昨今、生産拠点を中国に、という流れが止められない。
しかも、日本が経済大国でいられる骨組みを支える基幹産業、自動車産業が、拠点を中国に移さざるを得ない現状がある。

原因をご存じない経産省に申し上げたい。
日本は、リチウム電池の生産を中国に依存しており、国内で賄うだけのリチウム電池を調達できないからである。

つまり、量産車の分野で、 EV の戦いは、日本車は中国車と比較して圧倒的に不利なのである。
国内で、電池生産と、産業用電気供給の生産に対応できない。

凡そ日本が産業用に調達する7割のリチウム電池は大中華製造であり、電気供給不足は原発停止による。

量産車 EV のコンセプトで開発された日産リーフは、ランキングで、16位であって、更に下落傾向にある。
大中華の EV 車が、日産リーフより売れているのである。

リチウム電池の調達が出来なくなってしまった日本は、もはや EV での戦いは劣勢を強いられる。
メルセデスや、 BMW の様に、価格競争で自滅する量産車よりも、プレミアム電気自動車のマーケットに活路を見出す以外に日本が先進国として生きる道はないだろう。

窒化ガリウムを使用して高額となるプレミアム電気自動車を売る為に、無理に航続距離を伸ばそうとする BMW とメルセデスに対して、最初から車重が軽く、高コストである一方、出力も航続距離も優位性のある水素 FCV がプレミアム電気自動車のマーケットを制する余地は十分にある、と私は考えているのである。

現に今回、メルセデス・ヴィジョン EQXX がこだわっている窒化ガリウムを使用した低電費、高性能モーターを搭載した航続距離 1,000km を超えるコンセプトは、トヨタ・ミライの航続距離を意識していると思われる。
トヨタ・ミライは、フランスで航続距離の新記録を出ているが、恐らくこれを意識しているのであろう。

メルセデス・ヴィジョン EQXX のデザインとしては、テスラ・モデル3を意識したものとなっている。
日本車の唯一優位性のある対抗馬は、 Sony ヴィジョン-S であろうか。
因みに Sony は、今年、 RAV のコンセプトも発表しており、これはポルシェ・カイエンを意識していると思われる。

一方、メルセデス・ヴィジョン EQXX は、47.5 インチの大型ディスプレイを装備しており、これは、 Sony の Vision-S が搭載するディスプレイを意識していると思われる。
ディスプレイには、アバターと呼ばれる亡霊の様な人形がフラフラと表示され、話し出す。
プレイ・ステーションの機能とオーバーラップする Sony を強く意識していると思われる。

乗員の世話をしながら、贅沢な体験をサポートする、としている。
亡霊の形が変わって行くのかもしれない。
また、動物性の皮シートも排除されたシンプルなものとなっている。

如何であろうか。
この様な EV 車が、ガソリンのプレミアム車より売れるとは思えないが、今後の販売業績を見てみよう。