日本人の6~7割の人は最期は自宅でと希望していると言われているが、私は病院や施設、がんなら緩和ケア病棟の方が良い。
私が食道がんになって治療を始めた頃、自宅療養で介護ベッドが必要になった時にはどこに置こうかなどと考えたこともあったが止めた。身の回りのことが自分ではできなくなって寝た状態が多くなっての自宅療養は無理だ。家族の負担が大き過ぎる。
介護する立場になって考えてみると分かるが、介護作業の負担もあるが心の負担が大きい。がんの終末期、自宅療養で穏やかな時間が長く続くわけも無く、痛みに耐えながら次第に衰えて行く姿を家の中で常時見続けて行くことになる。
特に我が家は夫婦2人だけなので、たまにはゆっくりと外出して息抜きということも難しいだろう。もし容態が急変したら医師や看護師が来るまでたった独りで見守っているしか無い。本人が延命治療は望んでいないと知りつつも救急車を呼んでしまう人の気持ちも分かる気がする。
私は時期を見て緩和ケア病棟へ入院というのが希望。可能なら、それまでは在宅訪問医療ではなく、その病院の緩和ケア外来に通う。
緩和ケア病棟への入院はタイミングが難しい。入院待ちがあることが多くいつでも入院できるわけでも無い。殆どの病院では入院期間は最長1~2ヶ月なので、あまり早く入院すると自宅への退院か転院が必要になる。同じ病院の緩和ケア外来に通っていれば、そこのタイミングの見極めや入院が行い易いかも知れないと思うからである。
良く入院してしまうと自由に面会できなくなるというが、緩和ケア病棟の面会時間や人数は病院によって様々である。30分以内という所もあれば時間無制限という所もある。状況によっては病室内や家族用の別室で家族の泊まり込みが可能な所も多いし、ペットとの面会も可能な所だってある。
入院すると死に目に間に合わないかも知れないと心配する人がいるが、私はそれはそれで良いと思う。皆が皆、映画やドラマのように穏やかに逝く訳ではない。臨終の時の姿や声がトラウマになることもある。そのトラウマは、あの時ああしておけば良かった、こうしておけば良かったという自責の念に結び付く。
私には眠るように穏やかに逝く秘策がある。
痛いのや苦しいのは苦手なのでその時期が来たら鎮静、それも深く鎮静してもらうつもりだ。それなら最期は眠るように、というか眠った状態で穏やかに逝けるに違いない。今際の際に辞世の句は残せないので、言いたい事は早めに言っておくことにする。
(蛇足)
冒頭で最期は自宅を希望する人が6~7割らしいと書いたが、この数値、何やら少し怪しい。この数値は、例えば下図のような在宅医療推進の理由付けのために使用される。
このグラフは厚生労働省の平成19年度終末期医療に関する調査結果の中の【問48 自分が治る見込みがなく死期が迫っている(6ヶ月程度あるいはそれより短い期間を想定)と告げられた場合の療養の場所について】に対する下記からの回答が元になっている。
(1) なるべく今まで通った(または現在入院中の)医療機関に入院したい
(2) なるべく早く緩和ケア病棟に入院したい
(3) 自宅で療養して、必要になればそれまでの医療機関に入院したい
(4) 自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟に入院したい
(5) 自宅で最後まで療養したい
(6) 専門的医療機関(がんセンターなど)で積極的に治療が受けたい
(7) 老人ホームに入所したい
(8) その他
(9) 分からない
上記選択肢の(3)(4)(5)の合計(赤字の部分)を持って「60%以上の国民が自宅で療養したい」と結論しているのだが、水色の(5)(と(8)と(9))以外はどこかのタイミングで病院や施設に入院し、そこで看取って欲しいと回答している(太字の部分)。
つまり終末期医療を医療/療養の時期と最期の看取りの時期の2つに分けると、自宅で最後まで看取りたいと思っている人は僅か1割程度しかいない。9割ほどの人は最期は病院や施設で看取って欲しいと思っているように読み取れる。
令和4年度の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」では設問を最期を迎えたい場所(看取りの場所)と医療・ケアを受けたい場所を分けている。また、一般的な病気の他に、末期がん、重度の心臓病や認知症などと疾病別に問うアンケートとなっている。
この結果をみると医療やケアは病院や施設で受けたいという人が6~9割と多く、最期の看取りは自宅でという人が概ね3割程度のようだ。
もう在宅介護、在宅医療は無理なのだと思う。
一人暮らしの人も多いし、夫婦2人きりで要介護の人を要支援の人が支えるみたいなことになっている。仕方なく子供が介護離職し、自分の人生を犠牲にして親を支えるなどということまで起きている。これを在宅医療や在宅介護でカバーしようとしても、もう財源も人もいない。少ない人間で効率的に支えて行くには患者を病院や施設に集中して介護や医療を行うしかないと思う。
ちなみに、こうした調査を行っているのは厚生労働省医政局地域医療計画課の在宅医療推進室。文字通り在宅医療を推進するための組織であろう。前回の平成29年度の調査報告書では在宅医療を推進するために恣意的なデータの切り出しがあった(と個人的には思っている)が、令和4年度のものにはそれがないように見える。何か政策の転換でも考えているのだろうか…