古くから腸内細菌が健康に影響することは知られていたが、その分析には多くの時間と労力を必要としていたため、その研究は地道でゆっくりとしか進展しなかった。

ところが最近、複数の腸内細菌からなる腸内細菌叢(さいきんそう)の遺伝子をまとめて解析するメタゲノム解析の技術が進歩し、どのような細菌がどの程度含まれているかを比較的容易に解析できるようになった。この分析技術の進歩を背景として最近、腸内細菌叢に関する研究が数多く行われているという。

 

 

その1つが免疫チェックポイント阻害薬の効果に関するもの。

免疫チェックポイント阻害薬は効く人には長期間効くが、効かない人には全く効かないというが、その違いの要因の1つが腸内細菌叢の違いにあるらしいということで、健康な人の腸内細菌叢を食道がんと胃がんの患者に移植して免疫チェックポイント阻害薬の効果の違いを調べる臨床試験(*1)が昨年開始された。腸内細菌叢の移植(糞便移植)という珍しい手法であるためかマスコミなどを含め広く取り上げられたのでご存じの人も多いと思う。

 

腸内細菌叢移植は確かに強力な方法だが、腸内環境を変えるもっと一般的で簡易な方法として生菌製剤を使用するという方法もある。食道がんに関して調べてみると大阪大学(*2)や慶應義塾大学(*3)などでそうした研究が進められている。

 

生菌製剤というと何か非常に特殊な薬のように思うかも知れないが、大阪大学の臨床研究で使用される生菌製剤は市販の腸活サプリであり、慶應義塾大学の研究の場合は過去に患者に処方された整腸剤であろう。

 

これらはいずれもまだ初期の研究レベルの話であり、どのような腸内細菌叢を移植するのがより効果的なのか、どのような生菌製剤を服用すればより良いのかも解っていない。結果が出るのはまだまだ時間が掛かりそうだ。ただ、腸内環境を整えれば免疫チェックポイント阻害薬の効果がより増すに違いないと信じていろいろな研究が進められている。

 

私がこのブログで何を言いたいのか、もうお気付きの方もいるだろう。

もし私が今、免疫チェックポイント阻害薬での治療を受けている、あるいはこれから受けるのであれば、恐らく主治医に整腸剤の処方を依頼するか、自分で選んだ腸活サプリ服用の許可を取ると思う。もちろん既に整腸剤が処方されていればそれで良い。何を選べば良いのか、本当に効果があるのか解らなくても、何かやってみたいと思うだろう。

 

関連するもう一つの話題は、プロトンポンプ阻害薬(PPI、胃酸の分泌を抑える薬)が免疫チェックポイント阻害薬の効果を低下させるということ。もし私が免疫チェックポイント阻害薬の治療を受ける時にPPIが処方されているのであれば、免疫チェックポイント阻害薬と同時に服用し続けて良いのかを主治医に確認する。もちろん、PPIは有用な薬だし、医師は必要だと判断しているから処方しているのだと思うが、中には必要性が低下しても慣習的に処方し続けている医師もいるかも知れない。

 

 

*1 免疫チェックポイント阻害薬を導入する食道がん・胃がん患者に対する抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法の安全性試験

https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2024/0809/index.html

 

*2 切除不能又は再発胃癌・食道癌に対する免疫チェックポイント阻害剤とシンバイオテックス併用療法の有効性に関する検討

https://osaka-gan-joho.jp/clinicaltrial/1841/document/797/download

 

*3 生菌製剤が免疫チェックポイント阻害薬の有効性に与える影響の解明:多機関共同後方視的観察研究

https://www.ctr.hosp.keio.ac.jp/optout/images/20241052.pdf