1つ前のブログで下咽頭にがんが見つかったが、生検で取り切れたということで手術をしなかった内科医の話をした。


その約1年前に食道がん放射線治療後の救済手術を行うため、今のがん専門病院に転院した。そこで改めていろいろ検査したらがんが既に消えていたので手術は行わなかった。 


その時は単純に、がんが無かったから手術をしなかっただけのことだと思っていたが、がんに関する知識が増えてくると、それは必然ではなく主治医(食道外科医)の判断であり、ひとつの選択だったと思うようになった。


その時の私は、根治的科学放射線治療によって気管を圧迫していた大きな腫瘍が小さくはなったものの瘢痕化して食道内に残っていた。問題はその中に生きたがん細胞が残っているのか、もう残っていないのか、あるいはがん細胞が残っていても全て壊死しているのか、そのまま放置しておけばその内に消えるのか、という判断である。CTや内視鏡検査(+生検)では分からない領域だ。 


そこで一連の検査の後にPET/CT検査が追加された。PET/CTはがんドックなどでも使われ、がんを見つけることが得意だと一般的に思われているが、実はがんが無いことを判定するの方が得意である。 


頭頸部がんの例ではあるが、根治的CRT後の残存病変に対するPET/CTの感度は51.7%、特異度は97.9%、陰性適中率93.0%というデータもある。つまり、PET/CTでがんが残っていると判定しても半分くらいしか当たらないが、がんが無いと判定すれば9割以上は本当にがんが無い。 


私の場合、PET/CT検査が陰性だったことが手術を行わなかった大きな理由だが、それだけではない。 


今、食道がんステージⅡ/Ⅲの標準治療は術前化学(DCF)治療+手術だが、実は手術前の抗がん剤治療だけで20%ほどの人はがんは消えている。欧米先進国標準の術前化学放射線治療だと40%ほどの人のがんが手術前に消えている。 


ただ、手術前にがんが消えていることを正確に診断するのは難しいし、もし残っていて再燃したら予後が悪い。そう考え、術前治療の後には立ち止まることなく手術へと向かう食道外科医が殆どだろう。 


手術信仰とでも言うのだろうか、僅かでも再発の可能性があれば念のために手術で切除してしまうのが一番良い、患者を救うことになるのだと信じている外科医が多い気がする。 


如何に合併症を起こすことなく手術を行って患者の生存率を上げるかが至上目的であり、患者の術後QOLが軽視されている。一昔前の乳がん手術、昨日までの大腸がん手術と同じ雰囲気を感じる。 


話が少しそれたが、私の場合もPET/CT陰性でも数%はがんが残っている可能性があり、仮に消えている(完全奏効)としても再発の可能性が高いので念のために手術した方が良いと考える医者もいるだろう。 


それに救済手術を受けるためにわざわざ転院して来た患者だ。手術せずに経過観察としていて、その間に再発したら患者はクレームするかも知れない。ここは予防的に手術しておいた方が無難、そう考えても不思議ではない。


何故、主治医が私の手術を見送ったのか本当のところは分からない。聞いてみたところで「がんが消えていたので」と答えるだけだろう。ひとつ確かなことは、担当食道外科医は経験豊富な超ベテランだということ。救済手術にもかなり昔から取り組んでいて、そのリスクもその後の経過も十分に把握している医師だということだ。


兎も角、食道がんステージⅣaだった私は今も自分の食道と胃袋を温存できていて普通に食事が出来る。異時性多重がんはチョイチョイ見つかるが、原発の食道がんは再発していない。


あの時、"念のため手術"をしなかった主治医に感謝している。


病院の屋上庭園に咲くアガパンサス


(追記1)

手術はできないステージⅣaの食道がん。放射線治療で手術ができるようになったら手術をしたいと思う患者も多い。中には、医師がもうがんは消えている可能性が高いと言っても手術を希望する患者もいるようだ。


がんは手術しないと助からないと信じているのだ。手術信仰は医師だけじゃない、患者もその家族も皆手術を望んでいるようにも思える。


(追記2)

誤解されそうなので追加しておく。

上記は、がんが消えている可能性が高い場合の話である。例えばステージⅣで抗がん剤や放射線でがんが小さくなったがまだ確実に存在するような場合であれば、私もコンバージョン手術を希望すると思う。