がんサバイバーにとって1番怖いのは再発すること。

その再発を予防するための標準治療があることはあまり知られていないように思える。

 

 

◾️化学放射線治療後の抗がん剤治療

 

食道がん診療ガイドラインでは根治的化学放射線療法によってがんが消えた(完全奏効した)後は抗がん剤で追加治療を行うことを推奨している。

 

ただし、その解説を読むと「追加治療を行った方が良いというエビデンスは無く、その意義は明確化されていない」という。では何故、追加治療を推奨するのかというと「過去の臨床試験で追加治療を行っていたし、国際標準と考えられるから」だという。要するに「効果は良く分からないが、以前からの慣習だから行った方が良い」ということのようだ。

 

私の場合、この追加治療は勧められなかったし、それで良かったと思っている。

 

 

◾️手術後の抗がん剤治療

 

食道がんの手術の前に術前治療を行った場合、術後の補助療法は推奨されていない(手術の場合、再発予防のために行うのは追加治療ではなく術後補助療法と呼ぶようだ)。

 

ガイドラインの解説を読むと、海外の臨床試験(NCT01225523)について触れている。この臨床試験では、まず抗がん剤で治療を行った後に手術を行う。その後に抗がん剤で更に追加治療を行なった場合と行なわなかった場合を比較すると5年無病生存率(術後5年間再発しなかった割合、平たく言えば完治する割合)は19.1%から35.0%に伸びたという。この臨床試験で使用した抗がん剤はPCF(パクリタキセル、シスプラチン、5-FU)。

 

食道がん診療ガイドラインでは、抗がん剤の種類が国内で推奨されているDCF(ドセタキセル、シスプラチン、5-FU)とは異なっていることなどから、この臨床試験の結果は国内では直ちに適合できないという。要するにこの結果は術後補助療法の要否の判断材料にはしない(裁判の証拠としては採用しない)ということを述べているのだと思う。

 

術後補助療法を推奨しないという判決を導いているのは「一般に,術後化学療法は有害事象の発生頻度が高いことから完遂率が低く 、現時点で術後化学療法による有益性が勝っているとは判断できない」いう部分だと思われる。術後で体力が落ちている時に、再発予防のため、念のために抗がん剤治療するというのはキツいのでやめておきましょうということだろうか。

 

体力があって追加の抗がん剤治療を完遂できる人に対する術後補助化学療法の効果は不明である。術後補助療法よりも術前補助療法の方が良いというエビデンスはあるが、術後補助療法は行わない方が良いとする科学的なエビデンスはどうも見当たらない。

 

なお、パクリタキセルやドセタキセルが術後補助療法に保険適用されているかどうかは一応調べてみたが分からなかった。

 

 

◾️手術後の免疫チェックポイント阻害薬

 

最近、ブログなどでオプジーボによる術後補助療法を行う人と行わない人がいて、その違いが何なのか疑問に思っている人もいるようなので、少し調べたことを書いてみる。

 

オプジーボ(ニボルマブ)による術後補助療法の適否に大きく影響しているのがCheckMate577という臨床試験。この試験は手術の前に抗がん剤と放射線で治療を行い(術前化学放射線療法)、手術でがんが完全に取り切れた(R0手術ができた)患者を対象に最大12ヶ月間オプジーボによる術後補助療法を行ったもの。

 

結果はオプジーボを行った場合の無病生存期間は22.4か月、オプジーボの代わりに生理食塩水などのプラセボを使用した場合は11.0か月と、ほぼオプジーボを投与した期間だけ無病生存期間が伸びた(無病生存期間は術後に再発または死亡するまでの期間の中央値。がん以外の死因を除く場合は無再発生存期間)。

 

このことから、手術前に化学放射線治療を行い、かつ手術後の病理検査でがんが残存していた場合(pCRでは無かった場合)についてはオプジーボによる術後補助治療が推奨されている。ただし、国内で一般的な術前化学治療を行った場合については「現時点では推奨を決定することができない」としている。

 

その理由は術前補助療法の違いの他にも幾つか挙げられているのだが、全生存期間に関するデータが無いというのもある。確かにオプジーボによる再発予防効果により無病生存期間は伸びたが、5年無再発生存率(≒完治する人の割合)がどの程度違うのかとか、再発した時に初めてオプジーボを使用した場合とではどの程度違うのかなどは分かっていない。このため食道がんの術後補助療法としてオプジーボ、抗がん剤S-1、無治療の場合を比較する臨床試験JCOG2206が行われているが、結果が出るのはまだまだ先だ。

 

繰り返しになるが、ガイドライン2022では抗がん剤(今はDCFが推奨)で術前治療を行なった場合のオプジーボによる術後補助治療は推奨するとも推奨しないとも言っていない。日本食道学会では「担当医と良く相談してください」と言っているが、医師によっては患者に相談することなく、オプジーボを行わない判断をすることもあるのだろうと想像する。

 

元々、無治療のままでも半数以上の人は再発しないし、臨床試験の結果を見てもオプジーボで追加治療しても再発する人は再発する。オプジーボを行う場合には高額な治療費も発生するし、副作用についても注意が必要だが、それらを患者に詳しく説明するのは確かに手間だと思うが医師の役割である。

 

なお、術前の抗がん剤治療などでpCR(病理的完全奏効)が得られた人、つまり手術して調べてみたらがんが無かった人に対しては術後の補助治療は推奨されていないし、保険適用の対象でもない。

 

術後補助療法でオプジーボが保険適用となるのは最大12か月。がんがあって治療する場合には2~3か月投与して腫瘍が小さくならないようなら打ち切って他の治療に変える手もあるが、再発予防の場合には最初からがんが無い(検査では見つからない)ので効いているのかいないのか一向にわからない。副作用や再発が無い限り、臨床試験と同様に12か月間続けるしか無いだろう。3か月や6か月では無く12か月なのは、臨床試験でのデータがそれしか無いためであろう(製薬会社の作戦勝ち?)。

 

ちなみに、根治的化学放射線治療を受けたが、がんが残ったので救済手術を行なったという場合もオプジーボの使用が推奨され、保険適用になる(と思う)。

 

 

 

今日は5月6日なのでカバー画像は菖蒲

がんの治療では「6日の菖蒲、10日の菊」となりませんように。