食道と咽頭は繋がった1本の管で、その内側は共に偏平上皮で覆われている。食道がアルコールやタバコ、熱い飲み物などでダメージを受けてがんになったのであれば、咽頭の方だってダメージを受けている。そのため、食道がんになった人は咽頭がんに、逆に咽頭がんになった人は食道がんになりやい。これらが同時に見つかる場合(同時多重)もあるが、片方が見つかった何年か後に見つかる場合(異時多重)もある。特に私のようなまだら食道の人は、食道や咽頭に雨後のタケノコのように発生しやすいハイリスク患者のようだ。

 

ということで3年前の食道がんの放射線治療後も、昨年は食道の内視鏡手術(ESD)をうけたが、今年は下咽頭の内視鏡手術(ESD)を行うことになり、術前の説明を受けてきた。

 

食道でも下咽頭でも内視鏡を使って上皮内の病変部分をペロッと剥がすという点では同じなのだが、下咽頭のESDの方が遥かに大変だ。以前、下咽頭に極小さながんが見つかった時に生検で取れた(かも知れない?)ということで、準備を進めていた手術を見送って経過観察とした意味がようやくわかった。

 

第1に全身麻酔が必要なこと。

下咽頭の辺りをこちょこちょすると鎮痛剤で眠っていてもオェ〜と反応することがあるらしい。手術中に動いたら危険なので鎮静ではなく全身麻酔となる。全身麻酔では呼吸が止まるので手術中は気管挿入、人工呼吸となる。尿管カテーテルはヤメて紙パンツにしておくんなさいとお願いしたが、どうしても挿入したいようだ。手術場所も食道の時はいつもの内視鏡検査室だったが、下咽頭の場合は手術室となり麻酔科医が立ち会う。当然、いろいろなリスクも増える。

 

第2に下咽頭は狭くて見にくいこと。

口の奥を覗いた時にまず見えるのは声門やその奥にある喉頭で、下咽頭の部分はいろいろ凸凹しているし、喉頭蓋に遮られて良く見えない。これが内視鏡で定期的に検査していても早期下咽頭がんを発見し難い理由の一つのようだ。手術の場合には下咽頭が見え易いように佐藤式彎曲喉頭鏡なるおぞましい器具を喉に挿入する。この時に器具が歯に当たって歯が欠けることもあるので患者の歯型に合わせたマウスピースを作成して防御する。喉頭鏡の入れ方によっては声帯が損傷することもあるという。ちなみに、この喉頭鏡は麻酔が効いて寝た後に挿入する(ハズな)ので、少しは気が楽だ。

 

 

下咽頭表在がんの経口的切除術には幾つか種類があるが、頭頸科(耳鼻咽喉科)の外科医が執刀し、消化器系内科医が内視鏡でサポートするELPSと消化器系内科医が執刀するESDは共に彎曲喉頭鏡と内視鏡を使用するなど良く似ている。執刀医の所属診療科が違うということもあるが、大きな違いは使用する器具のようだ。ESDでは内視鏡の中を通した細い電気メスや鉗子を使用するが、ELPSでは長い柄がつき、カーブの付いた鉗子や電気メスを使用する。菜箸の柄の方をもってアズキを摘む、しかもその菜箸は曲がっているというような感じではないだろうか。素人的にはESDで使用するメスの方が断然操作性が良いように思える。下咽頭の表層粘膜層は僅か2mm程度しかないので、薄く剥がすにはESDの方が向いている気がする。

 

中咽頭や下咽頭の表在がんは消化器系の内視鏡検査の時に見つかることが多い。病院によって異なると思うが、今私が通っている病院では頭頸科と合意の上、上部消化管内科医(内視鏡医)がそのままESDで手術することが多いようだ。もっと進行して浸潤がんになっている場合には、頭頸科で放射線治療や喉頭切除などの本格的な手術を行うことになるのだろう。

 

 

(蛇足)

前回のCT検査で心臓と胸骨の間にモヤモヤしたものが見つかり、その診断結果を再度聞きに食道外科へ行った。CT画像では心臓の前に輪郭のはっきりとしない高層雲のような陰影が幾つか漂っているのだが、診断結果は原因不明とのことで経過観察となった。折角6ヶ月毎になったCT検査がまた4ヶ月毎に戻ってしまった。