がんに関する記事などを読んでいると「標準治療とは科学的根拠に基づいた最良の治療」などの説明に出会うが、これは少し不正確で過大な表現ではないのかと思う。

 

「最良の治療」というのは少し言い過ぎだろう。「統計的に1番良い治療」とか、「多くの人に有効な治療」とか、もう少し説明しないと、まるで他の治療法は絶対に良くないかのような印象を与えてしまい、患者が標準治療以外を選択する機会を奪ってしまうように思う。

 

標準治療について解説している診療ガイドラインには、実際の診療は患者の状況などに応じて選択すべきであると書かれている。例えば標準治療である治療Aは70%、他の治療Bは40%の人に効く場合に、ある患者には標準治療Aは効かず、治療Bが効く場合もある。つまり、標準治療は全ての患者に対して「最良の治療」ではない。

 

「科学的根拠に基づいて」という言い方も、せめて「科学的根拠などに基づいて」くらいの表現にしないと誤解を与える。

 

標準治療を解説した診療ガイドラインの推奨文にはその判断の元としたエビデンス(科学的根拠)の確からしさが評価され付記される。例えば、食道癌診療ガイドラインではエビデンスの強さ(確実性)はA(効果の推定値が推奨を支持する適切さに強く確信がある)からD(効果の推定値が推奨を支持する適切さにほとんど確信できない)まであるが、エビデンスレベルDの推奨文(=標準治療)だってあるのだ。

 

参考としているエビデンスの適切さにほとんど確信を持てないのにどうして推奨するのかというと、現在の診療ガイドラインでは科学的根拠(エビデンス)だけではなく、治療のメリットやデメリット、治療コスト、患者の希望などが総合的に考慮されて推奨が決定されているからだ。逆に言えば、治療効果が高く、そのエビデンスの確実性も高いという場合であっても、例えば治療出来る施設(設備やその技術を持った医師など)が少ないとか、健康保険非適用で治療費が高いとかがあれば標準治療にはならないこともある。

 

標準治療が果たす役割は重要なものだと思うが、標準治療は必ずしも「最良の治療」ではないし、必ずしも科学的根拠だけに基づいて決められているものでもないし、参照した科学的根拠だって確実性が高いものばかりとは限らないようである。

 

 

(蛇足)

ステージⅡ/Ⅲ食道がんの標準治療は手術だが、そのエビデンスレベルはC(効果の推定値が推奨を支持する適切さに対する確信は限定的である。真の効果は効果の推定値と実質的に異なるかも知れない)。

 

 

多摩川沿いの桜並木、桜には青空が似合うのだが…

 

もうチューリップが満開、左の菜の花はノラボウ菜

 

桜並木で出会った茶トラのトラコ。

翼を広げ、これから地獄を見に行くという