私は「お酒を飲むとがんになる」なんて知らずに毎日大酒飲み続け、食道がんになってしまった。食道がんになった人はその後も食道や咽頭、口腔に異時性のがんが出来やすいが、飲酒を続けるとその発生確率が更に2~4倍も高くなる。私はそこでビビって飲酒を止めたが、がんの治療が一段落すると再び飲酒を始める方もいる。

 

「お酒を飲むとがんになる」のは知っていても飲酒は止められない、と言うかお酒を止めようと思っていないのだと思う。私は断酒2年半の新人だが、大酒飲みとしては40年以上のベテラン、そんな気持ちも何となく分かるような気もする。お酒を止める気は無くても、さすがに飲み過ぎ、少し減らして見ようと思うこともあると思う。そんな時に下記のような方法を試して見てはどうだろうか。私が自分自身で実際に確かめたものは一つも無いので、試す、試さないは自己判断でお願いします。

 

□ 減酒薬

 

私が食道がんと診断される2、3年前、脳神経に作用してお酒を飲みたくなくなるセリンクロ(ナルメフェン)という薬が保険適用になったという記事を見た。以前、ヘビースモーカーだった私は、やはり脳に作用してタバコを吸いたくなるチャンピックスという薬(現在販売停止中)で楽に禁煙できたこともあり、減酒薬セリンクロにも興味を持った。残念ながら当時は処方してくれる医療機関が少なく、自宅近くには無いので結局諦めた。

 

従来から抗酒薬というのはあったが、これは断酒を目的としたもの。減酒薬(節酒薬)はそこまでの決意はまだ無いが、飲酒量は減らしたいという人向けのものなので入り口のハードルは低い。もちろん酒量が減った流れに乗ってそのまま断酒に成功する人もいる。

 

セリンクロはアルコール依存症に対する治療薬なので基本的にはアルコール依存症と認定される必要がある(と思っている)。アルコール依存症の判定シートはネット上で簡単に見つかるので自己判定は容易であるが、習慣的な多量飲酒(アルコール量60g/日以上)があることが1つの目安のようだ。

 

減酒外来を再び調べてみると対応クリニック等が以前の2倍以上に増えている気がするが、禁煙外来に比べるとまだまだ数が少ない。個人的にはセリンクロ等の減酒薬の保険適用条件を緩和し、例えば、がんの経過観察等で外来受診した時に必要な人には処方できるようになれば良いと思うのだが、いろいろ難しいことがあるのだろう。

 

□ 睡眠薬

 

夜眠れない時や夜中に目覚めた時についつい飲んでしまう寝酒。

早く寝たいのでピッチも早く、アルコール度数も高くなりがちだ。お酒を楽しむとか、酔いを楽しむということでは無く、早く眠りにつくことが目的ならば、寝酒よりも睡眠薬の方が良いと思う。

 

睡眠薬にもその強さ、早く効くもの、長く効くもの等、いろいろあるようだ。ドラッグストアでも睡眠補助薬は入手できるが、医者に睡眠導入剤を処方してもらった方が保険適用で安そうだし、いろいろコントロールが効きそうだ。

 

□ ハイチオール/L-システインサプリ

 

お酒を飲むとがんになるのは、アルコールが分解される途中に生じるアセトアルデヒドに発がん性があることが原因だと言う。ならば体内のアセトアルデヒドの分解を促進する薬があれば発がんリスクは減らせる“ハズ”である。そのような効果がある物質のひとつとしてL-システインという体内でも合成されるアミノ酸がある。

 

このL-システインを主成分とする医薬品にハイチオール(シリーズ)がある。

主にしみやそばかす等に効く美肌用の医薬品として販売されているハイチオールだが、薬品の効用の所には二日酔いも記載されていて、こちらを目的で服用する人もいる。アセトアルデヒドは発がん性があるだけで無く、悪酔いや二日酔いの原因でもあるので、それを無害化するL-システインには二日酔い予防の効果もあるのだ。

 

ただ、L-システインが胃液や唾液中のアセトアルデヒドの濃度を下げるとか胃がんのリスク低減に効果がありそうだという文献は見つかるが、食道がんや咽頭がん等にも予防効果があるかどうかは不明だ。それに二日酔いに効果があるということは、悪酔いせずに普段より沢山飲めるということにもなりかねず、発がんリスク低減どころか肝臓疾患やアルコール依存症のリスクが増えそうな気もする。適度な飲酒にコントロール出来るが、お酒による肌荒れが気になるという人には良いのかも知れない。

 

□ 内視鏡検査

 

お酒は生き甲斐のようなものなので、止めるつもりも減らすつもりも無いという人は、せめて内視鏡検査は定期的に受け続けた方が無難だろう。

 

がんの治療後、経過観察が続いている間は医師の指示に従って内視鏡やCTの検査を受けていれば良いが、治療後5年間無再発が続き完治と言われると、病院によっては、もう患者ではなくなったので来なくて良いと言われることもあるようだ。

 

がんは一般的に5年経てば再発する確率が少ないので完治と見做されることも多いが、食道がんや咽頭がんの場合、原発巣が治癒しても異時性のがんが多発する傾向が強い。異時性多重がんは5年経過すれば発生確率が減るという性格のものでは無く、飲酒や喫煙等の生活習慣を続けていれば異時性がんにもなり易いと思うので、内視鏡検査は一層重要になる。

 

5年経過後も患者が希望すれば定期観察を続けてくれる病院もありそうな気もするが、良く分からない。また、自治体によってはがん検診で内視鏡検査が出来る所もあるが、無ければ費用は掛かるが人間ドックなどを受けることになりそうだ。

 

蝋梅(ロウバイ)の黄色が青空に映える

 

 

(蛇足)

アルコール依存症に対する抗酒薬はアセトアルデヒドの分解を阻害するので、お酒を飲むと気持ちが悪くなり、最終的にはお酒を飲みたくなるのだという。アセトアルデヒドには発がん性があるので、早く断酒に成功しないとがんになりそうでちょっと不安を感じる。韓国の調査研究で1日15g以上飲酒していた人が“減酒“するとがんのリスクが減ったが、“断酒“した場合はがんリスクが増えた(1、2年後には減少方向へ)というものがあった。どのような方法で断酒したのか興味があるが調べてはいない。