過去の実績を見て食道がんでは放射線治療より手術の方が治療成績が良いと言うのは正しい。

 

食道がんで放射線治療を受ける人は、

1)ステージⅣで手術ができない人

2)ステージⅠ~Ⅲだが、体力がない等の理由で手術に耐えられないと判断された人

3)手術は可能だが、自ら放射線療法を選択した人

4)手術後に再発し、抗がん剤も効かなくなった人

などである。

 

自ら選択した3)以外の人は、ある意味では、外科医が見捨てた人である。

放射線治療するにしても、状態が悪く、抗がん剤を使用できずに放射線単独での治療にせざるを得なかったり、放射線も十分な線量を当てられない人も多く、どうしても治療成績は良くない。それでも外科医が治療すら出来なかった人達が放射線治療によって救われている。

 

もし、外科手術が出来るくらい元気な(?)患者なら、手術とほぼ同等の成績が出せるのに、という放射線治療医もいる。

 

外科手術 vs 放射線治療、状態が同じような人で比べるとどうなるのかを調べるために臨床試験がある。臨床試験では治験者は比較的元気な人が選ばれるので、放射線治療医が本来行いたい治療を行うことが出来る。

 

ステージⅠに関しては、JCOG0502の結果から術前化学療法+手術と根治的化学放射線療法ではほぼ同じという結果となった。このため食道癌診療ガイドライン(2022年版)では、ステージⅠの標準治療は術前化学療法+手術と根治的化学放射線療法が併記される形となった(CQ5)。

 

ステージⅡ、ⅢでもJCOG0909で根治的化学放射線療法でかなり良い成績を示すことが出来た。しかし、食道癌診療ガイドライン(2022年版)では2017年版と全く同じで「手術を中心とした治療を行うことを弱く推奨する」となっている(CQ7)。

 

CQ7は以下のような内容である。

JCOG9906: 根治的化学放射線療法では5年生存率37%

JCOG9907: 術前化学療法+手術では5年生存率55%

JCOG1109: DCF術前化学療法+手術では3年生存率72.1%

等の臨床試験の結果を元に

「cStage Ⅱ、Ⅲの食道癌患者には術前化学療法+手術を弱く推奨する」

とまず結論している。そのあとから、

JCOG0909: 根治的化学放射線療法の5年生存率64.5%、5年食道温存率54.9%

であることに触れて

「手術を希望しない患者に対しては根治的化学放射線療法が選択肢となる」

としている。

 

無茶苦茶だ。

「術前化学療法+手術を弱く推奨する」という結論に至る論理展開ではJCOG0909の成果は全く考慮されていない。

 

根治的化学放射線療法として参考にされたのは20年以上前に開始されたJCOG9906の結果だ。この試験では放射線を2期間に分割して照射し、途中で2週間の休止期間を置いている。抗がん剤の量も現在一般的に使用されるよりかなり少ないし、一世代前の2次元放射線治療装置が多く使用されている。要するに現在は殆ど行われていない治療方法での結果だ。

それを改善し、現在比較的一般的に採用されている治療方法での臨床試験JCOG0909は無視された。

 

一方、まだ最終報告が出ていないJCOG1109の3年生存率は考慮された。中間結果であることは仕方ないが、ならばJCOG0909の3年生存率も並記すれば良いではないか!

 

JCOG1109: DCF術前化学療法+手術では3年生存率72.1%

JCOG0909: 根治的化学放射線療法では3年生存率74.2%

 

その上で、治験母集団の差や副作用、合併症などを考慮して結論を出すべきだ。

 

素人目には術前化学療法+手術も根治的化学放射線療法もほぼ同じ、食道や胃袋を温存できる可能性があるので根治的化学放射線療法の方が良さそうに思える。

それとも私が何か大きな勘違いをしているのだろうか?

 

ある放射線治療医の方が、結果を出しても外科医はなかなか認めようとしないと著書で述べていたが、どうやら本当のことらしい。

 

全くの私見だが、外科医は体格が良く体育会系で声の大きい人が多い。一方、放射線科医は柔和でどちらかというと内向的な人が多いように思える。専門が性格を形成するのではなく、自分の性格に敵した専門分野を選ぶのだと思う。ひとりの患者の治療法を決めるにせよ、標準治療を決めるにせよ、議論の場では、のび太はジャイアンに弱いのだ。

 

 

注) 食道癌診療ガイドライン(2022年版)の最終版はWeb公開されていないので、パブリックコメント募集用のものを参照している。最終版では変更されているかも知れない。