S.B.のちょっと怖い話⑨
昔、俺がまだ東京に居た頃の話。
その日もやっぱり徹夜でさ。ようやく家に帰って来てさ。落ち着いてチャーハンとライスを食ってたらさ、チャイムが鳴るんだ。
午前四時に訪ねて来るなんて非常識だなあと若干苛々しながら玄関に向かったんだけどさ。
ふと背筋に嫌な予感が走ったんだよね。
ゾクッと。
これはー、もしかしたらー…とか思いながら覗き穴から見てみたら、居るんだよ!
まるで雨に降られたみたいにずぶ濡れで、すごい形相でこっちを睨んでる黒髪の少女の霊が!
しかも「呪ってやる…呪ってやる…」
って繰り返してんだよ。
俺は迷わずドアを開けた。そして聞いた。
「どうしたの?こんな夜中に」
「呪ってやる…」
「ほら。」
俺は脱衣所からタオルを取って頭をガシャガシャと拭いてやった。
「う、うう…」
「ほら、きれいになっただろ?」
よく見ると少女はとてもかわいい顔をしていた。吸い込まれそうな程大きな瞳に、白く透き通った肌。幼いのに時おり見せる大人びた表情がドキッとさせる。
「お兄ちゃん…あたしが怖くないの?」
「なんで?」
「だって…あたし、幽霊…」
少女は泣きそうな顔で呟いた。
「そんな事より、腹減ってんじゃないか?飯食うか?」
クゥゥ…少女のお腹が鳴る。
「ホラ、入れよ」
コクッとうなずく少女。
「チャーハンとライスしかないけど、どっちがいい?」
「…ごはん」
「こっち?」
俺はライスを差し出した。
コクッとうなずく少女。
「…ふりかけ…」
泣きそうに喋る少女。
「おう。あるよあるよ。ホレ。」
買い置きののりたまをかけてあげたら、少女は変な箸の持ち方で食べ始めた。
よほど腹を空かして居たのだろう。すぐに全部平らげてしまった。
「…ごめんね、全部食べちゃった。」
「子供がそんな事気にすんじゃねえよ。それよりもう遅いし、布団貸してやっから寝な」
「で、でもあたし、幽霊なの…に…」
今にも電池が切れそう少女を俺は抱き抱えて、布団に寝かしつけてやった。
「おにいちゃんは…どこで寝るの?」
眠そうな顔で聞いてきた。
「ああ、その辺で寝るから。子供は気にすんじゃないよ。」
「ごめんね、ありがとう。」
少女は手を握りしめて眠りに落ちた。
俺も寝かしつけながら、横でいつのまにか寝ちゃってた。
それから十三年後。
「おにいちゃん、起きて起きて!」
こいつももう18歳。しっかし美人になったなあ。いつか彼氏が出来て、嫁いで行くのかなあ。
「おにいちゃんの好きなチャーハン作ったよ!ごはんもいっぱいあるよ!」
「おう、すまん!」
「おにいちゃん!」
「ん?」
「ありがとう」