ビジネスソフトにおける表示画面及びその組合せの侵害性の判断基準
▶平成14年09月05日東京地方裁判所[平成13(ワ)16440]
1 ビジネスソフトウェアにおける表示画面及びその組合せの著作物性等
本件において,原告は,原告ソフトは,個々の表示画面がそれぞれ著作物であることに加えて,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると,主張している。
(1)ア 一般に,電子計算機に対する指令(コマンド)により画面(ディスプレイ)上に表現される影像についても,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)である場合には,著作物として著作権法による保護の対象となるものというべきである。すなわち,美術的要素や学術的要素を備える場合には,美術の著作物(著作権法10条1項4号)や図形の著作物(同項6号)に該当することがあり得るものであり,いわゆるコンピュータゲームにおいて画面上に表示される影像などには美術の著作物に該当するものも少なくないが,この点は,いわゆるビジネスソフトウェアについても同様に当てはまるものということができる。
ソフトウェアにおける表示画面は,これを見る利用者に,画面全体を一体のものとして認識されるものであるから,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」として著作物に該当するかどうかは,画面全体を基準として判断すべきものである(なお,本件において,原告は,原告ソフトの表示画面の特徴につき,画面の一覧性や直感的な画面表示というコンセプトに基づき,利用者が閲覧し(情報表示画面),あるいは入力すべき情報(入力画面)を,重要度・頻度に応じて画面上に配列した点にあると主張しているものであり,原告も,各表示画面について,画面全体が一定の思想に基づいて構成され,表現されている旨を主張しているものと解される。)。
イ 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであるから,ある物が既存の著作物の複製に当たるといえるためには,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することができる程度に再現されていることを要する。したがって,既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらない。
また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらない。
ウ 本件において,仮に原告ソフトの表示画面に画面全体として何らかの著作物性が肯定される場合には,これに依拠して作成された他社等のソフトウェア(以下「他社ソフト」という。)の表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフトの各表示画面における画面全体としての創作的特徴が他社ソフトの対応する表示画面においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして,この場合,原告ソフトの表示画面の特徴的構成の一部分が他社ソフトの表示画面においても共通して見られる場合であっても,①共通する当該一部分のみでは画面全体としての創作的特徴を基礎付けるには足りないときや,あるいは,②他社ソフトの表示画面に原告ソフトにない構成部分が新たに付加されていることにより,表示画面の全体的構成を異にすることとなり,これを見る者が表示画面全体から受ける印象を異にすることとなったときは,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面全体としての創作的特徴を直接感得することができないから,他社ソフトの表示画面をもって原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
(2)ア 一般にビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表れる表示画面は,常に一定ではなく,利用者がクリックやキー操作を通じてコンピュータに対する指令を入力することにより,異なる表示画面に転換する。このような一定の画面から他の画面への転換が,特定の思想に基づいて秩序付けられている場合において,当該表示画面の選択と配列,すなわち牽連関係の対象となる表示画面の選択と当該表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象となり得るものと解される。
この場合,個々の表示画面自体に著作物性が認められるかどうかにかかわらず,表示画面の選択又は組合せ(配列)に創作性が認められれば,著作物性を認めることができるというべきである。そして,編集物における素材の選択・配列の創作性が著作者により1個のまとまりのある編集物として表現されている集合体を対象として判断されることに照らせば(著作権法12条1項),このような表示画面の選択と相互間の組合せ(配列)は,牽連関係にある表示画面全部を基準として,選択・配列の創作性の有無を検討すべきものである。
イ 本件において,原告ソフトは,「グループウェア」と呼ばれるソフトウェアであって,複数のアプリケーションの機能を備えたものである。この点からすれば,原告ソフトにおける表示画面の選択とその相互の牽連関係(組合せ)に創作性が認められるかどうかは,原告ソフトウェア全体を構成する表示画面全部,又は一定の機能を有する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部を基準として判断されるべきものである。
そして,仮に原告ソフトの表示画面の選択又は組合せに創作性が認められる場合において,他社ソフトにおける表示画面の選択及び組合せが原告ソフトの複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフト全体又はそのうちの特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係(組合せ)の創作的特徴が,他社ソフト全体又はそのうちの対応する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係(組合せ)においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面の選択及び組合せから原告ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。
この場合,原告ソフトの一部の表示画面が他社ソフトに存在しないときには,当該表示画面の欠如が原告ソフトにおける表示画面の選択・組合せの創作的特徴に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。また,他社ソフトにおいて,原告ソフトにない表示画面や,原告ソフトにない牽連関係が新たに付加されているときには,これらの付加が付随的なものであって,原告ソフトと他社ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴の共通性に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。
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