法114条2項の適用事例
▶平成30年5月31日東京地方裁判所[平成28(ワ)20852]
3 争点(3)(損害額(著作権法114条2項))について
(1) 被告商品の限界利益額
ア 卸販売価格(率)
弁論の全趣旨によれば,被告商品1及び2の卸販売価格率は62%,被告商品3の卸販売価格率は60%と認められるから,被告商品1及び2の1枚あたりの卸販売価格は310円(500円×0.62),被告商品3の1枚あたりの卸販売価格は588円(980円×0.6)と認められる。
これに対し,原告らは,被告商品の卸販売価格率は65%を下回らないと主張するが,同主張を裏付ける証拠としては,卸販売価格率について「大手の仲介取次ぎ会社に関しては,通常65%と定められています。」との記載のある原告アートステーション代表者の陳述書を提出するのみで,そのほかに上記主張を裏付ける客観的な証拠を提出しないから,被告商品の卸販売価格率が被告の自認する上記率を上回ることを認めるに足りる証拠はなく,その主張を採用することはできない。
また,被告は,平成29年11月17日の第11回弁論準備手続期日において,従前の主張を変更し,被告の各卸先との卸販売価格率の例によれば平均48%であるから,これに基づいて計算すべきであると主張している。しかしながら,被告が卸販売価格率を開示する取引先は,被告の取引先の一部にすぎず,そのような一部の取引先との卸販売価格率の平均をもって被告商品の卸販売価格を算定するのは相当ではないから,被告の変更後の主張を採用することはできない。
イ 製造原価
証拠によれば,被告商品1及び2の1枚あたりの製造原価は少なくとも61.47円であり,被告商品3の1枚あたりの製造原価は少なくとも255.09円であると認められる。したがって,被告商品1及び2の1枚あたりの限界利益額は245 8.53円(310円-61.47円),被告商品3の1枚あたりの限界利益額は332.91円(588円-255.09円)であると認められる。
これに対し,原告らは,被告が被告商品1及び2の製造原価について根拠資料を合理的理由なく提出しておらず,また,被告商品3の製造原価の内訳では二重計上や不適切な費用計上等があるから,被告の製造原価に係る主張は信用できないと主張する。しかしながら,被告商品3の製造原価について,被告は,最終的に,増刷分の製造原価である255.09円を被告商品3の製造原価と主張しているところ,増刷分の製造においては,そもそも原告らが問題点として指摘する「翻訳」,「マスター代」,「オーサリング」,「DVDカム他」はいずれも費用計上されていないから,原告らの指摘は当たらない。また,被告商品1及び2の製造原価について,直接的な根拠資料は提出されていないものの,被告商品1及び2と共通する被告商品3の費用項目について,それを裏付ける各種請求書等によれば特に不合理な点はないことに照らすと,被告商品1及び2の製造原価についても被告の整理する一覧表は信用できるものと考えられる。したがって,原告らの主張を採用することはできない。
また,原告らは,原告イー・エックス・キューの取引条件に照らすと,被告商品1及び2を1枚追加製造・販売する際に要する経費額はそれぞれ55円を上回らず,また,被告商品3を1枚追加製造・販売する際に要する経費額は190円を上回らないと主張し,自らの経費に関する資料を証拠として提出するが,被告商品に係る製造原価については上記に説示したとおりであり,これに反する原告らの主張は採用できない。
(2) 被告商品における本件著作物の寄与度(推定覆滅事情)
被告は,被告商品は商品価値において映像部分の寄与度が極めて大きく,本件著作物(台詞原稿)の寄与度は20%程度であり,損害算定に当たっては20%を乗じるべきである旨主張する。
しかしながら,前記前提事実のとおり,被告商品は,原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声をその映像とともに複製したものであり,原告商品をいわゆるデッドコピーしたものであるところ,このようなデッドコピー品を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でないから,仮に被告商品の商品価値において映像部分の寄与度がある程度存するとしても,そのことをもって原告らの損害額を減額することは相当でない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。
(3) 被告商品3(100話収録)における本件アニメーション作品(24話)の寄与度(推定覆滅事情)
前記前提事実のとおり,被告商品3に収録された100話のうち,本件アニメーション作品は24話であるから,本件アニメーション作品の寄与度は24%にとどまる(76%について推定が覆滅される)と認められる。
これに対し,原告らは,被告商品3には,本件アニメーション作品24話を含め100話が収録されているものの,被告商品3の購入動機として本件アニメーション作品の顧客吸引力は他の作品に突出しており,その寄与度は50%を下回ることはないなどと主張する。
しかしながら,本件の全証拠を検討しても,被告商品3の商品価値において本件アニメーション作品の寄与度がその話数に応じた割合である24%を超えるものであるとは認められない。原告らは,「トムとジェリー」シリーズが各種売上ランキングにランクインしていることや,YouTubeにおいて被告商品3の他のアニメシリーズよりも視聴回数が多いことを根拠として主張しているが,そのことから直ちに被告商品3における本件アニメーション作品の寄与度が上記の24%を超えるということはできない。なぜならば,「トムとジェリー」作品を視聴したいのであれば,「トムとジェリー」作品のみが収録された,より安価な原告商品や被告商品1ないし2等を購入する選択肢もあるのに,あえて価格の高い被告商品3を購入する動機には,「トムとジェリー」作品以外の作品も同様に視聴したいという場合があることが容易に考えられるからである。
したがって,原告らの主張を採用することはできず,被告商品3における本件アニメーション作品の寄与度は,その話数に応じて24%とするのが相当である。
(4) 小括
前記前提事実の被告商品の販売枚数及び前記(1)ないし(3)を踏まえると,著作権侵害に基づく,著作権法114条2項による原告らの損害は,以下のとおり,各原告につき,62万4357円であると認められる(小数点以下切り捨て)。
ア 被告商品1及び2
(929枚+889枚)×248.53円=45万1827円
各原告につき,22万5913円
イ 被告商品3
8572枚×332.91円×0.24=68万4889円
各原告につき,34万2444円
ウ 弁護士費用
各原告につき,上記ア及びイの合計額56万8357円の1割程度である5万6000円が相当である。
エ 合計
各原告につき,62万4357円
【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/