実用品の著作権法における要保護の要件(応用美術の著作物性/子供用椅子の著作物性を否定した事例)

 

▶令和5年9月28日東京地方裁判所[令和3(ワ)31529]▶令和6年9月25日知的財産高等裁判所[令和5(ネ)10111]

[控訴審]

4 著作権法に基づく請求について

4-1 著作権法上の争点5(著作物性の有無)、争点6(複製又は翻案の成否)について

⑴ 原告製品は、実用に供される子供用椅子であるところ、原告らは、原告製品は、個別具体的に制作者の個性が発揮されている作品であるから、著作権法上の著作物に該当するなどと主張する。これに対し、被告は、創作性の判断に当たっては、著作権法と意匠法の適切なすみ分けを図る見地を考慮し、限定的に解すべきであるなどと主張する。

 そこで、検討すると、著作権法は「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」を目的とし(同法1条)、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と定めるとともに、同法にいう「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」(同条2項)と定める。なお、昭和44年5月16日の第61回国会衆議院文教委員会における政府委員の答弁によれば、同項の「美術工芸品」とは、一品制作の美術的工芸品を指すものと解される。また、著作権法では、著作者の権利として著作権に含まれる権利(同法17条1項、21条から28条まで)や、著作者人格権(同法17条1項、18条から20条まで)、著作権の制限規定(同法30条から50条まで)等が定められ、存続期間は、原則として著作者の死後70年を経過するまで(同法51条)とされている。

他方、意匠法は「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」を目的とし(同法1条)、意匠とは「物品」「の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)」「であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」(同法2条1項)と定める。また、意匠権は、設定登録により発生し(同法15 20条以下)、意匠権者の権利として、「業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する」(同法23条。なお、実施とは、意匠に係る物品の製造、譲渡等をする行為をいう。同法2条2項)などと定めるが、人格権の規定はなく、存続期間は、原則として意匠登録出願の日から25年をもって終了する(同法21条1項)。

いわゆる応用美術の著作物及び意匠に係る法令の適用範囲や保護の条件は、ベルヌ条約(昭和50年条約第4号)上、同盟国の法令の定めるところによるとされており(同条約2条(7))、原告製品のような実用品の形状等に係る創作を我が国内においてどのように保護すべきかは、我が国の著作権法と意匠法のそれぞれの目的、性質、各権利内容等に照らし、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図るという見地から検討する必要がある。

しかるところ、原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても、著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立する5 こととなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。

立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって、問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。他方、著作権法2条1項1号によれば、「著作物」ということができるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであ15 って、鑑賞ではない。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。

⑵ 以上を踏まえ、本件について検討すると、原告製品については、特徴①から特徴③まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び足置板がある点(特徴①)、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定する点(特徴③)からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものである。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。

そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/