「交渉行為として社会的に相当な範囲を超えたもの」として不法行為性を認定した事例

 

▶令和6年1月18日東京地方裁判所[令和4(ワ)70089等]▶令和6年8月28日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10016]

(2) 争点 1-1(原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無)について

ア 前記のとおり、そもそも、原告による本件施策の実施は、被告との関係で不法行為を構成するものとはいえない。

また、前記認定事実によれば、被告は、bから平成31年1月18日付け文書を受領したことにより、本件施策と類似した施策が数年前から実施されていたことを知り、本件施策が被告アイデアを採用したものではないことを理解し得たといえる(なお、被告の同年2月1日付け文書は、これを理解したことを前提としたものとも見得る。)。

にもかかわらず、被告は、当初はbに対し、その後原告社長等に対しても、3年以上かつ合計20回以上という長期かつ多数回にわたり、本件施策に係る対価の支払を要求する文書を執拗に送付し、その間、原告が原告訴訟代理人に被告への対応を委任した後もそのような態度を変えることはなく、剰え、被告の言い分に理解を示す有力者の関与ないし介入や被告の言い分に基づく書籍の出版ないし週刊誌等のマスメディアへの情報提供等を明示的又は暗に示唆し、遂には、原告社長、b及び原告訴訟代理人の刑事告発等を示唆するに至ったものである。

このような経緯等を踏まえると、遅くとも本件通知書を受領した後の被告の一連の行為は、原告に対し、社会的に受忍すべき限度を超えて執拗かつ一方的に対価の支払を要求するなどしてその業務を妨害し、本件訴訟の提起を余儀なくさせたものとして違法であり、原告に対する不法行為を構成するというべきである。

したがって、原告は、被告に対し、不法行為(民法 709 条)に基づく損害賠償請求権を有する。

 

[控訴審]

⑵ 本訴争点1-1(原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無)について

ア 前記のとおり、本件施策は被告アイデアに基づいて実施されたものではないから、原告による本件施策の実施は、被告との関係で何ら被告の法的に保護すべき利益を侵害するものではなく、不法行為を構成しない。そして、被告は、Aから平成31年1月18日付け文書を受領したことにより本件施策と類似した施策が数年前から実施されていたことを知ったのであるから、本件施策が被告アイデアを採用したものではなく、被告に対する不法行為を構成するものではないことを容易に理解することができたというべきである。

それにもかかわらず、被告は、その後も、当初はAに対し、その後は原告社長等に対し、3年以上、合計20回以上という長期、多数回にわたり、本件施策に係る対価の支払を要求する文書を送付している。その間、被告は、原告が被告への対応を委任した原告訴訟代理人から平成31年4月2日付け本件通知書及びその後の送付文書により、一貫して対価の支払要求に応じることはできない旨及びその理由を伝えられていた。しかし、被告は、みずからの主張の是非を顧みることなく、対価の支払要求を続けたのみならず、被告の言い分に理解を示す有力者の関与ないし介入や被告の言い分に基づく書籍の出版ないし週刊誌等のマスメディアへの情報提供等を明示的又は暗に示唆するに至っている。すなわち、被告は、原告訴訟代理人の令和4年5月25日付け文書により、数年にわたる被告との不毛なやり取りを終結させるべく法的措置の準備を進めている旨伝えられた後も、同年10月22日付け文書及び同年11月12日付け文書を送付し、原告がアイデア提供者に対し法を片手に脅しをするのであれば、原告及び原告訴訟代理人に由々しき問題として発展していく旨、また、原告がアイデア提供者である一般市民を侮り平然とそのアイデアを盗用していることに理不尽極まりなく思っているから、必ず近日のうちに実行するなどとして、遂には、原告社長、A及び原告訴訟代理人の刑事告発等を示唆しながら、原告に対し譲歩を迫り、結局、同年12月5日、原告により本件本訴が提起されるに至ったものである。

もとより、対立する当事者間において、双方が相手に譲歩を求めるために主張のやりとりをすることは通常のことであり、交渉過程において、自らの従前の主張を維持したからといって、それが直ちに不法行為になるわけではない。しかし、前記認定した本件の経緯等を踏まえると、少なくとも令和4年5月に原告から原告訴訟代理人を通じて法的措置を準備している旨の通知を受けた後に至ってもなお、同年10月及び同年11月に各文書を送付し、さらに刑事告発等を示唆しながら和解での解決を求めた被告の行為は、その主張する権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであり、かつ、そのことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず、新たな根拠を追加することなく、あえて従前と同じ主張を繰り返し、原告に対し一方的に対価の支払を要求し続けたものであって、その態様に照らし、社会的に相当な範囲を超えて原告の業務を妨害したものとして違法であり、原告に対する不法行為を構成するというべきである。

したがって、原告は、被告に対し、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権を有する。

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