漢字能力検定の対策問題集の編集著作権の帰属が争われた事例/著作権法14条の推定を覆した事例

 

▶平成24年2月16日大阪地方裁判所[平成21(ワ)18463]▶平成24年12月26日大阪高等裁判所[平成24(ネ)1019]

1 本件対策問題集の制作・編集の経緯

(略)

2 争点(本件対策問題集の編集著作権の帰属)について

本件対策問題集の奥書には,編者として,被告オークの一事業部門である日本教育振興会が記載されているから,編集著作者は被告オークであると推定されることになる(著作権法14条)。

そこで,上記推定が覆されるかが問題となるところ,原告は,本件対策問題集について,①原告の発意に基づき,②原告の従業員が職務上作成したものであり,③ 原告名義で公表されるはずのものであったから,その編集著作権は,著作権法15条1項に基づき,原告に帰属すると主張するので,以下検討する。

(1) 発意者

著作権法15条1項にいう「法人等の発意に基づく」とは,当該著作物を創作することについての意思決定が,直接又は間接に法人等の判断により行われていることを意味すると解され,発案者ないし提案者が誰であるかによって,法人等の発意に基づくか否かが定まるものではない。つまり,本件対策問題集の制作が原告の判断で行われたのであれば,「原告の発意に基づく」といえるのであって,最初に作成を思いついた人物や企画を出した人物が,原告の主張するようにP3(分野別シリーズ)あるいは大栄企画(ハンディシリーズ)であったか,あるいは被告らが主張するようにP2であったかは,この点を左右しない。

また,前記1のとおり,原告は,日本漢字能力検定及びこれに係る書籍の発行を業務としているところ,日本漢字能力検定の主催者として行う「書籍の発行」業務とは,書籍の販売のみならず,主催者(出題者)としてのノウハウを生かした書籍の制作業務を当然含んでいるものと考えられる。

そうしたところ,ステップシリーズについては,5級から7級の改訂版(本件書籍16~18)について,執筆要項が原告名義で作成され,外部業者との編集会議に出席していたのも原告の従業員らであるし,3級及び4級の改訂二版(本件書籍14,15)についても,見積依頼書,執筆要項,編集要項,組版にあたっての指示文書等の外部業者に渡す書面が,原告名義で作成されている。さらに,分野別シリーズ5級及び6級(本件書籍26,27)に係る執筆要項,編集要項,見積依頼書や,ハンディシリーズ5級及び6級(本件書籍32,33)に係る執筆要項,編集要項,印刷会社に対する発注書等も,同様に原告名義で作成されている。

したがって,本件対策問題集のうちこれら9冊(本件書籍14~18,26,27,32,33)の作成は,原告の意思によって行われたものと認められる。

(略)

一方,上記編集作業について被告オークが関与したことを窺わせる事情は,編集プロダクションとの業務委託契約を締結したというだけであり,それ以上に,被告オークが上記編集作業に関与したことを認めるに足る証拠はない。

以上のとおりであるから,本件対策問題集の制作に係る意思決定は,原告の判断により行われていたといえ,本件対策問題集は,原告の発意に基づき制作されたものと認められる。

(2) 作成者

前記1で認定したとおり,本件対策問題集の制作には,原告,編集プロダクション,被告オークが関与している。そこで,それぞれの関与の態様について,編集著作権を発生させるものといえるかについて検討する。

ア 創作性が発揮される作業

(略)

イ 原告の関与

前記アを前提とすると,原告の従業員は,本件対策問題集の編集にあたり,次のとおり創作性の発揮される作業を行ったといえる。

(ア) 編集方針の決定

本件対策問題集は,日本漢字能力検定において当該級に合格できるよう,学習効果を上げることを目的として制作されたものであるところ,制作当時において日本漢字能力検定の主催者であり,出題内容を決定する立場にあった原告は,最もよく,そのためのノウハウを持っていたといえる。

そして,上記のような立場にある原告において,その従業員が,前記1で認定したとおり,原稿作成を行う編集プロダクションに対し,執筆要項及び編集要項を作成・交付して,原稿作成にあたっての指示を与えており,編集方針を定めていたのは原告であったといえる。なお,原告の編集方針は,執筆要項等に具体化されていたものであって(たとえば,ステップシリーズ3級及び4級改訂二版の執筆要項では,読み問題及び書き取り問題における小問の内容・順序まで指定されている。),単なるアイデアに留まるものではない。

なお,本件売買契約においては,原告が発行する書籍の制作を被告オークが行うことになっているが,上記契約内容だけから,本件各書籍の制作を被告オークが行っていたと認定することはできない。編集著作権の発生は,編集作業を誰が行ったかという観点から認定すべきであり,契約の内容がこれを左右するものではない。したがって,上記契約が,利益相反となり,その効果が原告に帰属するかどうかという点についても,編集著作権の発生の認定には関係がないというべきである。

(イ) 選択・配列の決定権

(略)

(ウ) 具体的な選択・配列作業

(略)

ウ 編集プロダクションの関与

(略)

(ウ) 契約書の文言

被告オークと編集プロダクションとの間で締結された業務委託契約に係る契約書には,「本著作物の著作権・出版権は甲(被告オーク)に帰属する。」あるいはこれに類する記載がある。

しかし,著作権の発生しない場合においても,将来,契約の相手方から著作権を根拠とする内容の紛争が生じることを未然に防止するため,契約書上にこのような文言を記載することは,よくあるものと考えられ,上記記載をもって,契約に係る書籍の制作,編集に関与した編集プロダクションに,当該書籍の編集著作権が発生したと認めることは相当ではなく,また,被告オークに編集著作権が帰属する根拠ともならない。

(エ) 被告オークへの編集著作権の譲渡

以上のとおり,本件対策問題集について,編集プロダクションに編集著作権が発生しているとは認められないから,編集プロダクションとの間で著作権譲渡の合意をしていても,被告オークが編集プロダクションから編集著作権を取得することはない。

エ 被告オークの関与

被告らは,被告オークの取締役であるP2が,本件対策問題集の作成を発案し,その制作方針,編集方針を策定した上,これらを作成していたのであるから,本件対策問題集の編集著作権は被告オークに帰属すると主張するが,制作方針や編集方針を策定しただけでは,当該書籍の編集著作権が発生するわけでないことについては,前述したとおりであり,それ以上に,被告オークが本件対策問題集の編集について関与したという具体的な主張や立証はない。

さらに,被告らは,本件対策問題集について,被告オークが著作権を有する書籍の複製物もしくは翻案物であると主張するので,以下検討する。

(略)

オ まとめ

以上のとおりであるから,本件対策問題集について,素材の選択・配列について創作性のある作業を行ったのは,原告の従業員であると認められる。

(3) 名義人

著作権法15条1項の,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは,その文言からして,結果として「法人等の名義で公表されたもの」ではなく,創作の時点において「法人等の名義で公表することが予定されていたもの」と解釈するのが相当である。そして,前記(1),(2)のとおり,本件では,原告の発意により,原告の従業員が本件対策問題集の編集著作を行ったものであるから,本件対策問題集は,創作の時点において,原告が,その編集著作物を利用,処分する権利を有しており,その名義により公表することが予定されていたということができる(実際に編集作業に携わった,個々の従業員の名義の下に公表されることが予定されていたことを窺わせる事情はない。)。

この点,本件対策問題集は,当初発行に当たり,編集著作者を意味する「編者」が日本漢字教育振興会と表記されていたものであるが,前記(2)のとおり,その編集著作者は,原告の従業員であり,日本漢字教育振興会を編者とする上記記載は実態に合致せず,上記記載のみをもって,日本漢字教育振興会(被告オーク)を本件対策問題集の編集著作者であるとみなすことはできない。

(4) まとめ

以上のとおりであるから,本件においては,被告オークが編集著作者であるとの著作権法14条の推定を覆す事情が存在するといえ,本件対策問題集の編集著作者は,著作権法15条1項により原告であると認められる。

 

[控訴審]

1 当裁判所も,本件対策問題集の編集著作者は,著作権法15条1項により,全て被控訴人であると認められると判断する。その理由は,次の(1)のとおり原判決を補正し,次の(2)のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほか,原判決に記載されたとおりであるから,同部分を引用する。

(略)

(2) 控訴人らの当審における補充主張に対する判断

ア 事実認定について

(略)

イ 控訴人ら主張の役割分担について

控訴人らは,本件売買契約の契約書において,本件対策問題集等の作成製造(著作)の主体が控訴人オークと明確に定められており,控訴人オークと被控訴人との間では,製造作成(著作)は控訴人オーク,発行は被控訴人という役割分担が定められていて,控訴人オークは,これを前提として,自らの費用と計算において,本件対策問題集につき,各編集プロダクションに対し編集業務を委託し,本件対策問題集等の在庫リスクの全てを負担していたのであり,被控訴人は,本件対策問題集の製造制作に直接関わったことはないなどと主張する。

しかしながら,原判決…において説示されているとおり,編集著作権の発生は,編集作業を実際に誰が行ったかという観点から認定すべきであり,契約の内容がこれを直ちに左右するものではない。また,編集プロダクションに対する費用を控訴人オークが負担していたことも,編集著作権の認定の根拠になるものではない。そして,被控訴人の従業員が,本件対策問題集の制作に直接関わっていたことは,前記引用部分で認定したとおりである。

(以下略)

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/