司法書士試験合格を目指す初学者向け受験対策本の侵害性

 

▶平成27年1月30日東京地方裁判所[平成25(ワ)22400]

2 争点2(著作権侵害の成否)について

(1)ア 著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決参照)。すなわち,複製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解されるところ,この同一性の程度については,完全に同一である場合のみではなく,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない,実質的に同一である場合も含むと解される。

また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうと解される。しかるところ,著作権法は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物として保護するものであるから(同法2条1項1号),既存の著作物に依拠して作成された対象物件が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,当該対象物件の作成は,複製にも翻案にも当たらないものと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。

このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して作成された対象物件の同一性を有する部分が著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(同法2条1項1号)。

イ 前記のとおり,原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で不動産登記法の基本的概念や手続を説明するものであるから,不動産登記法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈や実務の運用等に触れ,簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避である。

ところで,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や判決や決定等である場合には,これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法13条1ないし3号参照),複製にも翻案にも当たらないと解すべきであるし,同一性を有する部分が法令の内容や判例,法令,通達等によって当然に導かれる事項である場合にも,表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。また,一つの手続について,法令の規定や実務の手続に従って記述することはアイデアであり,一定の工夫が必要ではあるが,これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別,法令等の内容や手続の流れに従って整理したにすぎない場合は,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ないから,手続について,実務の手続の流れに沿って説明するにすぎないものである場合も,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。このように解さなければ,ある者が実務の流れに沿って当該手続を説明した後は,他の者が同じ手続の流れ等を実際の実務に従って説明すること自体を禁じることになりかねないからである。さらに,同一性を有する部分が,法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解であったり,当該手続における一般的な留意事項である場合も,一般の解説書等に記載されていない独自の観点から,それを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じているときは格別,そうでない限り,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。けだし,ある法律問題についての見解や手続における留意事項自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ見解を表明することや手続における留意点を表記することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。

そうすると,法律に従った手続等についての受験対策用の解説書であれば,関連する法令の内容や法律用語の意味を解説し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,判例,法令,通達等によって当然に導かれる一般的な手続を説明しなければならないという表現上の制約があるため,これらの事項について,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,手続の流れを手続の目的に沿って,実務で行われる手順に従い,簡潔に要約し,それを説明する上で普通に用いられる法律用語や手続に関する言葉の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。

この点,原告は,原告書籍を全体として,又は一定以上のまとまりのある部分についてみた場合に,作成者の個性が表現されており,創作性がある旨主張するが,以下に述べるとおり,原告の主張する点においては,いずれも上記個性を感得することはできず,表現上の創作性を認めることはできない。

(以下略)

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/