建替えマンションの設計図面の著作物性・侵害性
▶平成26年11月7日東京地方裁判所[平成25(ワ)2728]▶平成27年5月25日知的財産高等裁判所[平成26(ネ)10130]
(2) 上記認定事実を基に検討する。
ア 本件において,原告は,原告図面における,①建物形状,②建物配置,③柱配置,④施設配置,⑤店舗形状及び寸法,⑥1階診療所(鍼灸院)形状及び寸法,⑦駐輪場の形状及び寸法,⑧エレベーター寸法,⑨バルコニーの形状及び寸法(2階~9階平面図),⑩エレベーター及び階段の位置(2階~9階平面図),⑪柱と梁の外部露出形状(2階~9階平面図),⑫住戸配置(2階~9階平面図),⑬住戸用メーターボックスの設置(2階~9階平面図),⑭屋外階段とオペラ通りとの間の吹き抜けの位置及び寸法(3階~9階平面図),⑮住戸用廊下形式及び形状(4階~9階平面図),⑯断面図に示された階数,柱間寸法,バルコニーの出寸法等につき,これらが被告図面に複製ないし翻案されたとして著作権侵害を主張するものであるから,上記①ないし⑯につき,原告図面における具体的な表現において,まず,著作物性が認められることが必要となる。
ところで,著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないと解される。
また,当該作品等が創作的に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現ということはできないというべきである。
そして,原告図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法10条1項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,「学術的な性質を有する図面」としての設計図の創作性は,作図の対象である物品や建築物を設計するための設計思想の創作性をいうものではなく,作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現されている場合に認められると解すべきであって,設計思想そのものは,アイデアなど表現それ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはならないというべきである。
イ これを本件についてみると,前記において,原告が原告図面の創作性として主張する点は,いずれも原告図面の作図の対象である本件建物に具現化された原告の設計思想にすぎないというべきである。
また,原告図面のような建築設計図面は,一般に,建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,作図の対象である建築物の設計思想を忠実に建築設計図面として表現しようとすれば,対象物の寸法,構造,形状が同一の設計図面を作成することになる以上,図面の表記も同一とならざるを得ないのであるから,作図上の表現の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして,原告図面に係るマンションは,通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションであるメゾンAを等価交換事業として本件土地上に建て替えることを予定したものであるところ,このようなマンションは,敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地はほとんどなく,本件におけるメゾンA建替え後のマンションである本件建物も,本件土地の特殊な形状や法令上の規制,メゾンAの原状や被告Aらの要望等に基づいて,自ずとその建物形状等や配置,構造のみならず,その寸法関係の大枠も定まるものであるから,原告図面は,そのような制約の下,ごく普通の表記法に従って作成された設計図にすぎないと認められる。
したがって,原告が主張する創作性は,いずれも原告図面の作図上の工夫ということはできないし,原告図面を精査しても,他に表現の創作性といえるような作図上の工夫があると認めることはできない。
さらに,原告が原告図面と被告図面との共通点であると主張する前記①ないし⑯の点は,いずれも,設計思想の特徴というアイデアが共通であるにすぎず,前記(1)ア記載のとおりの原告図面の内容にも照らせば,前記①ないし⑯の点につき,原告図面における作図上の工夫や図面による表現それ自体の創作性に係るものがあるものとは認められないから,著作物性があるとはいえないというべきである。
ウ なお,原告は,原告図面の対象物である本件建物そのものの創作性若しくは本件建物の設計思想上の工夫を主張していることから,原告は本件建物そのものの著作物性を問題としている余地があるので,念のため検討するに,仮に,作図の対象となる建築物に「建築の著作物」若しくは「美術の著作物」等として著作物性が認められる場合に,その図面にその対象物の創作性が再生されていれば,作図上の工夫のない図面でも著作物性が認められる余地があるとしても,本件においては,前記のとおり,原告図面は設計図面とはいっても極めて概略的な図面であり,特に原告図面の断面図は,建物断面図を縦横線と各住居等の場所を寸法等で示したものにすぎず,各階の平面図についても,同様に部屋の位置やバルコニー,屋外避難階段の存在が示されるのみであって,およそ完成後のマンションを観念することが不可能な図面にすぎず,原告図面のみに基づいては本件建物を完成させることはできないから,そもそも,原告図面には完成後の建築物が表現されているものということはできないというべきである。
したがって,本件建物の創作性を前提として原告図面の著作物性を認めることもできないというほかない。
[控訴審]
2 上記認定事実に基づいて,検討する。
(1) 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないと解される。
また,当該作品等が創作的に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現ということはできないというべきである。
そして,控訴人図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法10条1項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,建築物の設計図は,設計士としての専門的知識に基づき,依頼者からの様々な要望,及び,立地その他の環境的条件と法的規制等の条件を総合的に勘案して決定される設計事項をベースとして作成されるものであり,その創作性は,作図上の表現方法やその具体的な表現内容に作成者の個性が発揮されている場合に認められると解すべきである。もっとも,その作図上の表現方法や建築物の具体的な表現内容が,実用的,機能的で,ありふれたものであったり,選択の余地がほとんどないような場合には,創作的な表現とはいえないというべきである。
(2) これを本件についてみると,まず,作図上の表現方法については,一般に建築設計図面は,建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,作図上の表現方法の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして,控訴人図面をみても,その表現方法自体は,そのような通常の基本設計図の表記法に従って作成された平面的な図面であるから,表現方法における個性の発揮があるとは認められず,この点に創作性があるとはいえない。
次に,控訴人設計図における具体的な表現内容をみると,控訴人図面に係るマンションは,通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションを等価交換事業として建て替えることを予定したものであるところ,このようなマンションは,一般的に,敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在し,また,等価交換事業としての性質上,そのような制約の範囲内で,敷地を最大限有効活用するという必要性がある上,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後の建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地は限られているといえる。
特に,本件においては,前記認定事実によれば,控訴人図面は,平成21年6月頃までの被控訴人Y₂らとの協議結果に基づいて,①本件建物を9階建てとすること,②被控訴人Y₂らの住戸位置,階数は原則としてAの状態を踏襲すること,③エレベーター,階段は北側に設置し,エレベーターは住戸に接しないことを設計与条件として作成されたものであると認められる(控訴人図面以降の平成22年2月に作成された競合相手である長谷工図面も,これらの諸条件を前提として作成されている。)そして,建替え前のAは,敷地の形状に沿って,南西面の方が長く北東側の方が短いL字形の形状で,1階及び5階を除き,内部廊下を挟んで南西面に各3戸の住戸,北東面に各1戸の住戸が配置され,1階には診療所と飲食店が配置されていたものであり,上記②の条件のとおり本件建物においてもこれらの住戸位置や階数は原則として踏襲することとされ,住戸面積についても各住民の希望があったことからすれば,もともと控訴人図面に表現される建物の全体形状,寸法及び敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置については,選択の幅は限られたものであるというべきである。また,杭の位置は,建物の形状に関わるものであるが,Aには合計17本の既存杭が配置されていたため,同杭を避けた場所に建替後のマンションの杭を配置することが合理的であり,控訴人図面作成時点では,これが前提となっていたところ,新たに配置する杭の本数は,建物の安全性を確保できる範囲内ではできる限り少ない方が財政面・住環境面等から望ましいことからすれば,上記住民の希望に沿った建物の全体形状,寸法及び敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置,既存杭を前提とした場合の合理的な位置の選択の幅は狭いというべきである。
もっとも,上記住民の希望に沿った建物の全体形状,寸法及び敷地における建物配置並びに建物内部の住戸配置,既存杭を前提とした場合の合理的な位置の選択の幅は狭いとはいえ,各部屋や通路等の具体的な形状や組合せ等も含めた具体的な設計については,その限定的な範囲で設計者による個性が発揮される余地は残されているといえるから,控訴人の一級建築士としての専門的知識及び技術に基づいてこれらが具体的に表現された控訴人図面全体については,これに作成者の個性が発揮されていると解することができ,創作性が認められる。ただし,以上に説示したところからすれば,本件においては設計者による選択の幅が限定されている状況下において作成者の個性が発揮されているだけであるから,その創作性は,その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるにすぎず,その著作物性を肯定するとしても,そのデッドコピーのような場合に限って,これを保護し得るものであると解される。
そこで,次に,控訴人図面と被控訴人図面とを具体的に比較検討する。
【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/