一般向け法律実務書の侵害性

 

▶平成17年05月17日東京地方裁判所[平成15(ワ)12551]▶平成18年3月15日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10095等]

(2) 本件における原告各文献及び被告各文献のような一般人向けの法律問題の解説書においては,それを記述するに当たって,関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明し,法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等に触れ,当該法律問題に関する見解を記述することが不可避である。

 既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や通達,判決や決定等である場合には,これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法13条1ないし3号参照),複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。そして,同一性を有する部分が法令の内容や法令又は判例・学説によって当然に導かれる事項である場合にも,表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。

また,手続の流れや法令の内容等を法令の規定に従って図示することはアイデアであり,一定の工夫が必要ではあるが,これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別,法令の内容に従って整理したにすぎない図表については,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ない。よって,図表において同一性を有する部分が単に法令の内容を整理したにすぎないものである場合にも,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。そのように解さなければ,ある者が手続の流れ等を図示した後は,他の者が同じ手続の流れ等を法令の規定に従って図示すること自体を禁じることになりかねないからである。

さらに,同一性を有する部分が,ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合は,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じている場合は格別,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。けだし,ある法律問題についての見解自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ見解を表明することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。

そして,ある法律問題について,関連する法令の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのゆえに,これらの事項について,条文の順序にとらわれず,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,法令の内容等を法令の規定の順序に従い,簡潔に要約し,法令の文言又は一般の法律書等に記載されているような,それを説明する上で普通に用いられる法律用語の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。よって,上記のように表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらない。

他方,表現上の制約がある中で,一定以上のまとまりを持って,記述の順序を含め具体的表現において同一である場合には,複製権侵害に当たる場合があると解すべきである。すなわち,創作性の幅が小さい場合であっても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には,複製権侵害に当たるというべきである。

本件において著作権侵害を判断するに当たっては,これらの観点から検討する必要がある。

[(上記総論部分について)控訴審同旨]

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/