出版権侵害における「依拠」性(「依拠」を否定した事例)
▶平成30年11月15日東京地方裁判所[平成29(ワ)22922]
1 争点⑵(被告による出版権侵害行為の有無)について
事案に鑑み,争点(2)から判断する。
⑴ 出版権者は,設定行為で定めるところにより,頒布の目的をもって,その出版権の目的である著作物を,原作のまま印刷その他の機械的又は科学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有し(著作権法80条1項1号),被告が,原告の出版権を侵害したというためには,被告が,頒布の目的をもって,その出版権の目的である著作物を複製したことが必要である。
また,原告が出版権を有する著作物について,被告が本件出版物において複製したというためには,本件出版物が,被告によって,原告が出版権を有する著作物に依拠して作成されたことを要する。
原告は,本件においてAを著作者とする著作物の出版権侵害を主張するところ,本件出版物の質問票における質問の表現と新日本版の質問票における質問の表現とを比較し,その類似性に基づいて上記出版権侵害を主張しており,本件出版物の質問票に記載された質問が,新日本版の質問票に記載された質問に依拠して作成され,本件出版物の質問票が,原告が出版権を有する新日本版の質問票を複製していると主張していると解され,まず,この点について判断する。
⑵ 掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる。
(略)
⑶ 以上の事実によれば,Bらは,昭和62年11月7日から昭和63年6月までに間にBら新訳を完成させ,これを前提として,学会での発表を行うと共に標準化作業を進め,平成4年3月25日にBら新訳を掲載した書籍を出版したと認められる。前記前提事実のとおり,新日本版は平成5年10月1日に出版されたものであるから,Bらが,Bら新訳を作成した昭和62年から昭和63年当時,新日本版に接し,これを用いてBら新訳を作成することは不可能であったといえる。
これに対し,原告は,昭和63年には既に新日本版の第一段階の質問票は完成しており,Bらがこれを参照した可能性がある旨主張するが,MMPI新日本版研究会が旧三共房版の改訂作業を引き受けたのは平成2年であり,同研究会が「MMPI原版を最も適切と思われる日本語に移」す作業を行ったこと(前記⑵)からすれば,昭和63年の段階で新日本版の質問票の質問と同内容の翻訳が完成していたと認めることは困難であるし,また同翻訳が公表され,Bら一般の研究者が参照し得たと認めるに足りる証拠もない。
そして,本件出版物の質問票の質問は,Bら新訳の質問92が「看護婦になりたいと思います。」から「看護師になりたいと思います。」へと変更された以外は,Bら新訳の質問と同一であるから(前記⑵),本件出版物の質問票の質問が,新日本版の質問票の質問に依拠して作成されたと認めることはできない。なお,本件出版物の質問票の質問と新日本版の質問票の質問は,その内容においてほぼ重なるが,これらはいずれもMMPIを翻訳したものでその内容が共通することは当然であり,その重なりによって,本件出版物の質問票が新日本版の質問票に依拠して作成されたと認めることはできない。
したがって,本件出版物は新日本版を複製したものであるとは認められず,原告主張の出版権侵害は理由がない。
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