上映権侵害の主体性が争点となった事例(特定のゲーム機に必要不可欠なコントローラーの販売等が問題となった事例)

 

▶平成9年07月17日大阪地方裁判所[平成5(ワ)12306]

2 原告は、被告は右のとおり映画の著作物たる、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に必要不可欠な機器たるコントローラーとして、原告製品の情報入力システムを盗用し同一の情報入力システムを持つ複製品たる被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物を上映せしめているのであるから、ユーザーではなく被告が上映の主体すなわち上映権の侵害行為者である旨主張するところ、右原告の主張は、被告において被告製品を製造、販売する行為がすなわち映画の著作物である本件ゲームソフトウエアを上映する行為に当たるとの趣旨であると解されるので、以下この点について検討する。

(一) 本件ゲームソフトウエアの上映に際しコントローラーの果たす役割についてみるに、前記の事実及び(証拠)によれば、本件ゲームソフトウエアの各プログラムをプログラムメモリー内に固定したゲームカセットを本件ゲーム機本体に差し込みそのスイッチボタンを押すと、当該テレビゲームのデモンストレーション画像が規則的に繰り返し映し出されるが、コントローラーを本件ゲーム機本体にある端末と電気的に接続し、そのスタートボタンを押すとゲームが開始し、レバー、ボタンを操作すると本件ゲーム機本体にゲーム操作情報が電気信号として入力され、右ゲーム操作情報及びこれに対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報を本件ゲーム機本体内のCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、受像機の画面上に影像の動的変化として出力する、というものである。

右のとおり、コントローラーは、そのスタートボタンを押すことによりゲームを開始させ、レバー、ボタンを操作することにより、本体のCPUを通じて本件ゲームソフトウエアからキャラクターに特定の動作をさせる等のゲーム情報を出させる機能を有するゲーム操作情報を本件ゲーム機本体に電気信号として入力するものであって、受像機の画面上に映し出される影像の動的変化ないしゲームの展開を決定づけるものであり、その意味では、本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠の機器ということができる(但し、前記のとおりデモンストレーション画像の上映のためにはコントローラーは不要であるが、デモンストレーション画像の上映だけではテレビゲームとしての意味がない)。

(二) このように、コントローラーは、本件ゲーム機本体を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠な機器といえるのであるが、問題は、このようなコントローラーである被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、それ自体映画の著作物としての本件ゲームソフトウエアを上映する行為と同視できるか否かである。

(略)

(2) 原告は、被告は被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物たる本件ゲームソフトウエアを上映せしめている旨主張するのであるが、被告がユーザーを手足ないし道具として利用して本件ゲームソフトウエアを上映せしめているものとして、被告自ら本件ゲームソフトウエアを上映しているのと同視できるためには、単に被告製品を購入したユーザーがその購入目的からして必然的に被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するに至ることが明らかであるというだけでは足りず、被告において、被告製品をユーザーに販売した後も、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映することについて何らかの管理・支配を及ぼしていること、及び被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることが必要であると解するのが相当である。

しかして、被告製品を購入したユーザーは、これを被告の管理・支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、被告の意思に関わりなくユーザー自身の自由意思をもって被告製品を本件ゲーム機本体に接続して本件ゲームソフトウエアを上映するのであって、本件全証拠によるも、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映することについて被告が何らかの管理・支配を及ぼしていることは認められない。

また、被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることも、これを認めるに足りる証拠はない。原告は、被告製品を購入する対価は、観衆たるユーザーが本件ゲームソフトウエアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当する(から、「営利を目的としない」上映には当たらない)旨主張するが、被告製品の価格は本件ゲームソフトウエアの上映の対価そのものである、あるいはこれが被告製品の価格のうちに含まれていると認めるに足りる証拠はなく、かえって、ユーザーが被告製品を購入する時点では、既に購入済みの本件ゲームソフトウエアがある場合の当該ゲームソフトウエアを除き、本件ゲームソフトウエアのうちどのゲームソフトウエアを購入し、これを上映するかは具体的に確定しておらず、将来原告によって販売されることあるべき本件ゲームソフトウエアの種類も確定していないといわざるをえないから、被告がその価格に本件ゲームソフトウエアの上映の対価を含ましめることは不可能というべきであり、また、被告製品を販売した後は、被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアの上映がどの程度なされるかは、今後の被告製品の販売数量の見通しに関する資料にはなるとしても、原則として被告に何らの利害関係ももたらさないものと考えられるから、被告製品の価格について、製造原価その他の必要経費に適当な利潤を上乗せした金額のほかに、本件ゲームソフトウエアの上映の対価が加算されているということはできない。

被告は、被告製品の購入者による本件ゲームソフトウエアの上映は、被告製品の製造販売行為と映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を結びつける単なる因果の流れにすぎないということができるから、このような必然的因果の流れを前提として、不特定多数のユーザーをして本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイできるようにする目的で被告製品を製造、販売する行為は、当然に不特定多数のユーザーによる被告製品を使用しての映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を惹起せしめる行為であり、かかる行為は、法的には正に被告による著作権侵害行為と評価することができると主張するが、以上の説示に照らして採用することができない。

(3) 以上によれば、被告製品がもっぱら本件ゲーム機本体にのみ使用できること、被告製品が本件ゲームソフトウエアの上映に必要不可欠な機器であることを考慮しても、被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、本件ゲームソフトウエアを上映する行為と同視することはできないといわなければならない。

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