カイロプラクティックに関する技術書の翻訳の侵害性が争点となった事例
▶平成12年05月12日東京地方裁判所[平成10(ワ)16632]▶平成13年11月27日東京高等裁判所[平成12(ネ)2902]
[控訴審]
1 本件書籍の一部が本件著作物の一部を翻訳したものであるか否かについて
当裁判所も、原判決添付対照表(本件対照表)の各左欄記載の本件書籍の部分のほとんどは、本件対照表の右欄記載の本件著作物の部分をそのまま直訳したものと認めるものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決に説示されているとおりである。…
以下は、控訴人らが、当審において、本件著作物と本件書籍との間では文章表現が異なる部分がある、あるいは不可避的に同一ないし類似する表現となるなどと主張する点についての判断である。
(1) 臨床家のためのブロックテクニック(本件書籍一)について
(1)-1 本件著作物三の97頁20行目で「STAND TO HEAD OF TABLE. PATIENT BRINGS ARMS OVERHEAD INTO EXTENDED POSITION.」との記載に対応するのは、本件書籍一の96頁5行目における「ドクターはテーブルの頭方に立ち、患者は腕を伸ばして頭の上45度に持っていきます。」との記載であり、「頭の上45°に持っていきます。」の「45°」の表現は本件著作物三にはない。
しかし、本件著作物三の上記「PATIENT BRINGS ARMS OVERHEAD INTO EXTENDED POSITION」との表現を、その意味を念頭に置いてより分かりやすくするために意訳したものと認められ、これをもって翻訳の域を出ているものと認めることはできない。
(1)-2 本件書籍一の116頁12~15行「腰椎の矢状方向関節面にかかわる症候群で、特に第5腰椎に関連し、左の神経根が牽引され、右の関節面が圧迫されている典型的な例です(第5腰椎は右下方転位)。右側で、第5腰椎に回転サブラクセーションがある場合、腰椎の冠状方向の関節面で右神経根が圧迫されています(第5腰椎左回旋位)。」に対応する本件著作物一~三の記載はないので、この部分は、控訴人Aの独自の表現と認めることができる。
(略)
(3) 翻訳か否かに関する総合判断
(3)-1 本件対照表の本件著作物と本件書籍との記載の対応をみてみると、本件著作物の記載を意訳した部分も多いところ、意訳部分をもって翻訳に当たらないとすることはできない。控訴人らは、S.O.T.[注:「カイロプラクティックのサクロ・オクシピタル・テクニック」を意味する。]技法の記述に由来する表現の必然性があると主張するが、本件著作物が、言語及び図形の著作物であり、そこに独自の表現がされているものであることは明らかである。その表現内容がS.O.T.技法に係るものであることから、S.O.T.にかかわる用語や一般的な医学用語が多く使われることも当然のことであるが、特に本件対照表に摘示の本件書籍の記載に対応する部分の表現が、他のS.O.T.技法を解説した著作物であって本件著作物より前に刊行されたものの表現と同じようなものとなり、そのようになることに必然性が存するものであることを認めるべき証拠はない。本件書籍の本件対照表左欄の部分のうち、前記(1)-2、3、(2)-1で説示した部分を除く部分が、右欄記載の本件著作物の対応部分を翻訳したものであることは、(証拠)によって認定することができ、控訴人Aが独自に叙述したものであるとすることはできない。
例えば、本件書籍三の27頁にある「心臓の病変には、いろいろなケースがあるので、ここでは臨床上の分類は割愛させていただきます。」との表現は技法の叙述でないことは明らかであり、これに対応する本件著作物五17頁にある「CARDIAC LESIONS ARE MULTIPLE, AND NO EFFORT WILL BE MADE HERE TO CLINICALLY CLASSIFY THEM.」との表現と一致するものであり、本件著作物を翻訳したものにほかならないことになる。被控訴人が指摘する本件書籍一の58頁の表現とこれに対応する本件著作物二の154頁の表現及び本件書籍三の52頁の表現とこれに対応する本件著作物五の28頁の表現とを対比すると、これらの本件書籍における表現が控訴人Aの創作によるものであるとは到底いうことができない。
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