法36条の立法趣旨/検定教科書に準拠した小学校用国語テストが「試験又は検定」(36条1項)に当たらないとされた事例
▶平成15年3月28日東京地方裁判所[平成11(ワ)13691]▶平成16年6月29日東京高等裁判所[平成15(ネ)2467等]
(注) 本件各著作物は,いずれも小学生用国語科検定教科書に掲載されている。被告らは,上記教科書に準拠した小学校用国語テスト(「本件国語テスト」)を印刷,出版,販売している。
(2) 公表された著作物は,入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において,当該試験又は検定の問題として複製することができるとされ(著作権法36条1項),また,営利を目的として,複製を行うものは,通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない(同条2項)とされているところ,これらの規定は,入学試験等の人の学識技能に関する試験又は検定にあっては,それを公正に実施するために,問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があるので,あらかじめ著作権者の許諾を受けることは困難であること,及び著作物を上記のような試験,検定の問題として利用したとしても,一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられることから,試験,検定の目的上必要と認められる限度で,著作物を試験,検定の問題として複製するについては,一律に著作権者の許諾を要しないものとするとともに,その複製が,これを行う者の営利の目的による場合には,著作権者に対する補償を要するものとして,利益の均衡を図ることとした規定であると解される。
そうすると,同条1項によって,著作権者の許諾を要せずに,問題として著作物の複製をすることができる試験又は検定とは,公正な実施のために,試験,検定の問題として利用する著作物が何であるかということ自体を秘密にする必要性があり,それ故に当該著作物の複製について,あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような試験,検定をいうものであって,そのような困難性のないものについては,複製につき著作権者の許諾を不要とする根拠を欠くものであり,同条1項にいう「試験又は検定」に当たらないものと解するのが相当である。
(3) 上記(1)で認定した事実に証拠と弁論の全趣旨を総合すると,本件国語テストは,児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階において,教師が,各児童ごとにその学力の到達度を把握するものとして利用し,本件国語テストの結果(得点)が,教師の児童に対する評価の参考となり得るものであると認められる。
しかしながら,教科書に掲載されている本件各著作物が本件国語テストに利用されることは,当然のこととして予測されるものであるから,本件国語テストについて,いかなる著作物を利用するかということについての秘密性は存在せず,そうすると,そのような秘密性の故に,著作物の複製について,あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような事情が存在するということもできない。
また,証拠には,小学校の教師等が本件国語テストを用いるテストの実施に当たって秘密の保持を配慮し,又は配慮していたとの趣旨を述べる記載があり,その具体的内容は,当該テストの実施を学年の各クラスで同じ時期にしていたことと,テストの内容が漏れないように各クラスが当該テストを終了するまでは答案用紙を返却しないということにある。しかし,学年の各クラスで同一時期に実施するとしても,同一時間に実施するのでなければ秘密保持とはならないし,実施の時間が異なるとすると,他のクラスにおいて当該テストが実施されるまで答案用紙の返却をしないとしても,秘密保持の上でさしたる効果がないといえる。さらに,上記の程度の配慮でさえ,どの小学校においても一律行っていたとまで認めるに足りる証拠はない。したがって,一般的に,本件国語テストについて秘密保持が図られていたと認めることはできない。
よって,被告らが,本件各著作物を本件国語テストに複製することは,著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たるものではない。
[控訴審同旨]
【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/