法114条1項の意義と解釈

 

▶平成16年6月29日東京高等裁判所[平成15(ネ)2467等]

(注) 本件各著作物は,いずれも小学生用国語科検定教科書に掲載されている。被告らは,上記教科書に準拠した小学校用国語テスト(「本件国語テスト」)を印刷,出版,販売している。

 

(2) 予備的主張①(著作権法114条1項による損害の主張)について

著作権法114条1項は,著作権者等が故意又は過失により自己の著作権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害行為によって作成された物を譲渡するなどしたときは,その譲渡した物の数量等に,著作権者等がその侵害行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益を乗じた額を,著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力を超えない限度において,著作権者等が受けた損害の額とすることができる旨規定している。

しかしながら,上記規定は,侵害者と同様に当該物に係る販売その他の行為を行う能力を有する限度において,侵害者の譲渡数量を著作権者等の販売することができた数量と同視することができるとしたものであるところ,前記(1)で説示したとおり,一審原告らは,本件国語テストと同種の商品を自ら制作販売することのできる能力を有するものとは認められない。

のみならず,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害者の制作した物と代替性のある物でなければならないところ,弁論の全趣旨によれば,一審原告ら主張に係る単行本は本件各著作物が省略を伴うことなく全部登載され,一般の書店等で販売されるものであると認められるのに対し,前記引用に係る原判決に認定したとおり,本件国語テストは,本件各著作物の一部と設問で構成されるものであり,一審被告らは一般の書店を介さず直接又は販売代理店を通じて各小学校に直接納入しているものであって,上記単行本と本件国語テストは本件各著作物の利用の目的,態様を異にし,販売のルートにも大きな違いがあり,上記単行本は本件各著作物の掲載された本件国語テストに代替し得るものではあり得ないから,一審原告ら主張に係る単行本が同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するとはいえない。

したがって,本件においては,著作権法114条1項を適用することはできないというべきである。

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