プログラムの著作物性を立証するための特定性の問題

 

▶平成21年02月26日大阪地方裁判所[平成17(ワ)2641]▶平成24年1月25日知的財産高等裁判所[平成21(ネ)10024]

(注) 本件では、『原審において,本件プログラム全体のソースコードは文書として提出されておらず,原判決は,特許を取得する程度に新規なものであった本件装置に対応する本件プログラムも新規な内容のものであるということができ,しかも,同プログラムは,その分量も多く,選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものということができるから,その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推認することができることなどから,一部分のソースコードに基づいて,本件プログラムの著作物性を認めている。』という判断があった。

 

[控訴審]

(3) プログラムの著作物性の判断基準

ところで,プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法に制約されつつ,コンピューターに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。

したがって,プログラムに著作物性があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない。

(4) 本件プログラムの表現上の創作性

ア DHL車側プログラムについて

DHL車側プログラムのうち,「NL」「NL1」の処理(TC車の車番付けを命ずる命令に関する処理)を行うための部分に関する部分は,200行前後のうちプログラムの実行順序に係る制御を行う命令(JP命令とCALL命令)の行数が50行前後,つまりステップ数で全体の4分の1前後が実行順序制御に係る命令に用いられている。

DHL車側プログラムには,ソースコード上では,「JP,・・・##」と示される,飛び先の番地が指定されず,結果として0000番地が指定された場合と同様の動作を行うJP命令(CA0000)が含まれている(なお,(証拠)においては,上述したもの以外のJP命令については飛び先となるメモリのアドレス(番地)の値が具体的に示されており,(証拠)と同様に,ロードされるメモリ上のアドレス(番地)及びJP命令の飛び先となるアドレスが絶対的に定まったものとされている。)。

これらの命令は,変更後DHCフローチャートや変更前のソースコードには含まれているものではないから,本件装置を動作させるための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは不明である。もっとも,昭和61年12月に「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しない」という異常への対処としてプログラムが変更されたことからすると,変更を行ったプログラム作成者は,何らかの意図,たとえば,当該プログラムの変更による変更後の制御のタイミングを維持すべきであること等に基づいて,ほかに選択肢があるにもかかわらず,あえて上記部分を挿入したままとしたものと推測されなくもない。

そうすると,DHL車側プログラムには,上記命令が存在することにより,創作性が認められる余地がないわけではない。

もっとも,1審原告は,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,本件プログラムは著作物性を有するなどと主張して,当初,本件プログラムのソースコードを文書として提出せず,当審の平成22年5月10日の第4回弁論準備手続期日における受命裁判官の求釈明により,本件プログラム全体のソースコードを文書として提出するか否かについて検討し,DHL車側プログラムについては,ソースコードを提出したものの,本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証しない。

したがって,DHL車側プログラムに挿入された上記命令がどのような機能を有するものか,他に選択可能な挿入箇所や他に選択可能な命令が存在したか否かについてすら,不明であるというほかなく,当該命令部分の存在が,選択の幅がある中から,プログラム制作者が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現ではなく,プログラム制作者の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものであることについて,これを認めるに足りる証拠はないというほかない。

以上からすると,DHL車側のプログラムには,表現上の創作性を認めることはできない。

イ TC車側プログラムについて

TC車側プログラムのうち,「LINK」の処理(TC車側における車番がつくまでの処理)を行うための部分は,294行中88行がプログラムの実行順序に係る制御を行う命令であるとされているところ,当該部分の相当程度について,ソースコードが開示されていない。

DHL車側プログラムとTC車側プログラムとは,各プログラムが機能することによって,本件装置を制御するものであるから,「不連結時TC流動発生ブレーキ閉が作用しないという異常」を防止するために本件装置を制御するためには,両者について同様の配慮が必要となると推測されることから,TC車側プログラムにも,DHL車側プログラムと同様に,本件装置を動作させるための最低限の機能を実現するために必要不可欠なものであったか否かは明らかではない命令が挿入されている可能性は否定できない。

もっとも,仮に,このような命令が挿入されていたとしても,DHL車側プログラムと同様に,当該命令部分の存在が,プログラム制作者の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものであることについて,これを認めるに足りる証拠はないというほかない。

したがって,TC車側プログラムにも,表現上の創作性を認めることはできない。

ウ 1審原告の主張について

1審原告は,本件装置は,特許権を取得できるほどに新規で進歩性を有する画期的な技術であり,新規な機能を有するものであるから,当該装置を稼働させるための本件プログラムも,他の既存のプログラムの表現を模倣することにより作成することはできないところ,特に,中核部分であるTC車の車番付けを行わせる部分は,本件プログラムが有する多数の機能のうち最重要部分を実現するもので,新規のアイデアに基づき全くのゼロから開発されたものである,当該中核部分を構成する各パートは,それぞれ数十から百数十もの命令数により記述されている上,多数のサブルーチンを用いた構成となっているところ,このような複雑なプログラムにつき,その表現が1つ又は極めて限定された数しかなかったり,だれが記述しても大同小異のものとなったりすることは到底あり得ないし,他にも多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされてひとまとまりのプログラムとなっているのであるから,本件プログラムは,本来,ソースコードの詳細な検討を行うまでもなく,著作権の保護を受けるプログラムの著作物に該当することは明らかであるなどと主張する。

しかしながら,本件装置が新規性を有するからといって,当該装置を稼働させるためのプログラムが直ちに著作物性を有するということができないことは明らかである。

また,先に述べたとおり,プログラムに著作物性があるというためには,プログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するのであるから,新規のアイデアに基づきゼロから開発されたものであること,多くの命令数により記述されていることから,直ちに表現上の創作性を認めることはできない。本件プログラムが多数の機能を実現するための部分が有機的に組み合わされているとしても,当該プログラムに表現上の創作性があることについて具体的に主張立証されない以上,当該プログラムにより実現される機能が多岐にわたることを意味するにすぎない。

さらに,1審原告は,TC車側プログラムのうち,SOSUBサブルーチン(072F~0792番地)のソースコードを例として,(証拠)が機械語レベルでほぼ同一の命令構成となっているにもかかわらず,ソースコードレベルでの具体的表現が異なること,SOSUBルーチンの行う仕事は,①連結器のピンを外すパワーシリンダを作動させる部分,②パワーシリンダが正常に作動したか否かをチェックする部分,③パワーシリンダの作動状況及びそのチェックの結果を操作者に知らせるため表示灯の点・消灯を行う部分の3つに大別できるところ,本件プログラムの極めて小さな一部分であるSOSUBルーチンのソースコードにおける具体的表現だけをみても,多数の選択肢の中から開発者の個性により選択された表現が用いられているなどとも主張する。

しかしながら,(証拠)におけるソースコードレベルでの具体的表現の相違は,CPUの機種変更に応じて必然的に定まる変更に基づくものにすぎず,創作性の基礎になり得るものではない。

また,上記①ないし③の機能を実現するそのほかの表現に係る選択肢が存在する可能性があるからといって,直ちに本件プログラムにおけるSOSUBルーチンの具体的表現について,創作性が認められるものでもない。1審原告が具体的に指摘する各事項は,いずれも本件装置が要求する仕様や機能を単にプログラムとして実現したものにすぎず,表現上の創作性を基礎付けるものではない。

1審原告の主張は採用できない。

(5) 小括

以上からすると,本件プログラムには,著作物性を認めることができない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/