自叙伝(ヒューマンドキュメンタリー)の共同著作者性が問題となった事例

 

▶平成20年02月15日東京地方裁判所[平成18(ワ)15359]

1 争点1(本件書籍は原告と被告Bとの共同著作物であるか否か)について

(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件書籍が創作された経緯に関し,以下の事実が認められる。

(略)

(2) 上記認定事実によれば,原告は,本件書籍の文章表現について,単に被告Bの口述表現を書き起こすだけといった,被告Bの補助者としての地位にとどまるものではなく,自らの創意を発揮して創作を行ったものと認められる。また,被告Bは,自らの体験,思想及び心情等を詳細に原告に対して口述し,被告Bの口述を基に原告が執筆した各原稿について,これを確認し,加筆や削除を含め表現の変更を指摘することを繰り返したのであるから,被告Bも,本件書籍の文章表現の創作に従事したものと認められる。

そうすると,本件書籍の文章表現は,原告及び被告Bが共同で行ったものであり,原告と被告Bとの寄与を分離して個別的に利用することができないものと認めるのが相当であるから,本件書籍は,原告と被告Bとの共同著作物(著作権法2条1項12号)に当たるというべきである。

(3) 被告らは,本件書籍は,被告Bの体験を被告B自身の言葉で語ることを目的とする自叙伝であり,原告の作業は,被告Bの口述を逐一文章に起こし,被告Bがこれに施した補筆,加筆,修正を踏まえて,確定稿に仕上げることであり,その過程に原告の創作が入り込む余地はなく,本件書籍は被告Bの単独著作物である旨主張する。

しかしながら,本件書籍の第1原稿が,被告Bの口述を逐一文章に書き起こしたにすぎないものであるということができないことは,前記認定のとおりである。また,本件書籍において表現の対象となっている思想や感情が被告Bの固有のものであるとしても,その表現行為,すなわち,本件書籍の第1原稿を作成し,それを推敲して最終的に本件書籍を完成する過程には,原告の創作性が発揮されているといえる。

したがって,本件書籍を被告Bの単独著作物であるとする被告らの上記主張は理由がない。

2 争点2(本件書籍に関する原告の著作権の持分割合)について

共同著作物の持分割合については,共有者の意思表示によって定まり,共有者の意思が不明な場合には,各共有者の持分は相等しいものと推定される(民法264条,250条参照)。

本件書籍については,前記認定のとおり,印税の配分率について,本件書籍が刊行される直前に,出版社である草思社のDから,原告と被告Bに対して,本件書籍の制作過程における作業量を考慮して,本件書籍の印税(10パーセント)を,原告に6パーセント,被告Bに4パーセント配分してはどうかという提案があり,これを受け,原告と被告Bとの間で,最終的に,原告を6.5パーセントとし,被告Bを3.5パーセントとする旨の合意が成立している。

上記事実に照らせば,本件書籍の著作権の持分割合については,共有者である原告と被告Bとの間で,原告を65パーセントとし,被告Bを35パーセントとする合意があったものと認めるのが相当である。

なお,本件全証拠によっても,被告Bと原告との間で,本件書籍に関する原告の著作権共有持分を被告Bに譲渡する旨の合意がされたことを認めることはできない(かえって,本件書籍の刊行に当たって,原告と被告Bとの間で,本件書籍の印税配分率が合意されていたことは上記のとおりである。)。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/